プレゼント
ほのぼの明るい話が書きたくて、
別のVR物を始めてしまいました。
このジャンルはほとんど初めてと同じなので、
生暖かい目で見ていただければ幸いです。
R15は念の為につけておきます。
問1
7月、期末が終わった帰宅直後、
「ドラゴン、欲しい?」
と、問われた時の正解を述べよ。
…他の人の答えは解らないが、
取り敢えず私の返答は
「もっと、もっふもふなのがいい。」
でした。
「そういえば、
花芽は爬虫類よりも犬とか猫が好きだったわね。」
「うん。」
「なら…コカトリスとか?」
なぜ、視線も合わせられない危険な存在を選ぶのか。
「目を合わせてスキンシップ取りたいから、
別な奴で。」
「え〜?それなら」
メデューサとか?
同じだね。
「なら、バジリスクで!」
「それも同じ。」
母は、私の石像でも欲しいのだろうか?
「う〜ん。それなら…。」
と、何やらブツブツ言いながら考え込む
母の横を通り抜け、持っていた鞄をソファーの側に
降ろす。
そのままの流れで冷蔵庫から麦茶を取り出すと、
2個のグラスと共にダイニングテーブルの上に
置いた。
自分の椅子に座りつつグラスに麦茶を注げば、
急激に冷えた表面に薄っすらと水滴が
浮かび上がってくる。
(夏だな〜。)
と、その様をぼんやりと眺めていると、
何かを思い付いた表情の母が向かいの椅子に
座ったので、取り敢えず麦茶の入ったグラスを
手渡した。
「有り難う。頂くわね。」
2人揃ってお茶を飲むと、
そこで漸く一息ついた心地になる。
で、本題はここからだ。
「それで、どうしたの?」
「ん?」
「突然、『ドラゴンが欲しい?』って
訊いてくるから。」
私が訊ねると、母はとても楽しそうに笑う。
「物語の導入一文目って、大切でしょ?
やっぱりインパクトがないと!」
「新しい書籍?」
我が母の職業は、
ファンタジー小説と童話の編集者だ。
時々その仕事関係で、詳しくは話してくれないが、
先程のような遣り取りを私とする事が多々ある。
なので、今回もそうなのかと
納得しかかった私に向かって、
母は名探偵の様に右手の人差し指を突きつけた。
「誰かの物語じゃなくて、貴女の物語よ!そう!」
と、そこで何故か溜め
「我が娘!
『茶葉花芽・高校1年16歳』の、
新しい物語が!今、始まるの!!」
あ、代わりの自己紹介有り難うございます。
「これと共に歩む!異世界冒険記が!
今、ここからね!!」
そうテンションを上げたままの母が、
側にあったダンボール箱を某勇者の様に頭上に
掲げてみせる。
「それは?」
「はい、入学祝いのプレゼント。」
先程までの盛り上がりとは打って変わって、
重要アイテム扱いだったダンボール箱が
普通に手渡された。
「どうだった?今の盛り上げ方。」
「BGMが欲しかったかな。」
「あー!そっか!BGMね!」
「うん。お父さんは今回参加しないの?」
「参加したがってたんだけど、
今日は忙しくて抜けられないのよねぇ。」
父の案だと、2人揃ってダイニングの椅子に座り
「よくぞ参った勇者よ!
魔王を倒す為に旅立つのだ!」
のセリフの後に、大きな箱を開けるように言われ、
その中に木の棒と共に置いてあるこのダンボール箱を見つけるという流れになっていたらしい。
…因みにこの遣り取りは、
誕生日のプレゼントを渡す時に必ず行われる、
我が家の恒例行事だったりする。
(箱の中の木の棒は、
偶に薬草に見立てたホウレン草だったり、
別ゲーム式でフライパンが入っている事も
あったり。)
「お父さん残念がってたわ〜。
1週間前から『花芽、凄く喜ぶぞ!』って、
楽しみにしてたもの。」
そう母は軽く溜息を吐いた後、
優しい表情で微笑みかけてきた。
「帰ってきたら、お父さんに御礼言うのよ?
後、玄士にもね。」
「お兄ちゃんにも?」
玄士とは、私の4歳年上の兄の事だ。
現在大学に行く為に家を出て、
一人暮らしをしている。
母の言葉によると、
この入学祝いには兄も関係しているらしい。
「お父さんと2人で探し回っただけど、
何処に行っても『品切れ』『売り切れ』
『入荷未定』ばっかりで。
それで、あの子に聞いたら
『今度の予約購入の抽選に申し込んでみる。』
って言ってくれてね。
お願いしたら、見事予約が取れたのよ!
…だから、これはほぼあの子のお手柄なの。」
中身はまだ見ていないが、
この中にある物には家族の祝いの気持ちが
沢山詰まっている事がわかった。
…それだけで、
この中に入っている物を大事にしようと私は思う。
「…有り難う、お母さん。
お父さんには、帰って来たら言うね。
お兄ちゃんには…メールでもいいかなぁ?」
「いいと思うわよ。…さ、開けてみて。」
母に促されるまま、
持っていたダンボール箱をテーブルに置き、
丁寧に開いていった。
一緒に入っていた梱包材も取り出して退けると、
中には白い小さな箱が1つだけ、
中央にちょこんと収まっている。
そして
「これ…!」
その表面には、この1年間ずっと望んでいた物の名
『Different World Online』
という文字が、
どこか誇らし気に記されていたのだった。