思考の森
“思考の森”と呼ばれる森がありました。
その森は“人生”と呼ばれる物語と、よく似ているけれど違ったものでした。
“人生”には現在があり、過去があり未来があります。
“思考の森”にはありません。
あるのは感覚や感情、考えようとする意思です。
それと、
入口は常に開かれていました。
“思考の森”の入口は命を持つ者達、全ての心の中にあるからです。
“思考の森”には、暖かい心を何処かに落とした虚無の怪物がいました。
怪物は落とした心を探して“思考の森”を彷徨い続けます。
在るところに生まれつき言葉が喋れない子供がいました。
子供の名前はティツィアーノといい、
街の変わり者“思考する”少年ティツィアーノと言えばみんなが知っていました。
ティツィアーノは“思考の森”によく行きます。
喋れないから静かでいいなんてことはありません。
ティツィアーノは考えて感じたことを書き留めます。
意識だけ森へ行こうものなら困ったもので、歩いている途中でいきなり止まったり。かと思えば寝ながらでも紙に何かを書き付けたり。
気味の悪い子供でした。
ティツィアーノは“思考の森”のことをよく知っています。
怪物のことも。
ティツィアーノは怪物に名前をつけます。
ハイデリヒ
虚無の怪物の意味です。
名前をつけた瞬間、怪物は心の火を手にしました。
もう怪物は寒くありません。
怪物は心を貰ったのです。
怪物は自分の形を思い出しました。
虚無のハイデリヒに変わりました。
怪物は喜びました。
怪物は
怪物はティツィアーノに会ってお礼をしようと少年を探しました。
いつも森に来る少年は何処にもおらず、探しても見つかりませんでした。
少年ティツィアーノは“思考の森”に現れませんでした。




