表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

モスキート〜女たちの戦場〜

作者: 流手

「総員! 配置につけええぇぇ!」


 隊長のかけ声で私たち(・・・)はそれぞれの持ち場に行く。


 チーム『モスキート』日本支部の、今回の獲物は雄。

 髪の後退具合と脂肪の量、ずっと画面を見つめていることから、四十代半ばの無職と思われる。


「No.0どうだ!?」

「異常ありません!」


 No.0。

 それが私のコードネーム。


 私の主な役割は敵の偵察だ。

 隊長の元に駆け寄り、結果を報告する。


「そうか……ファイブで行こう」


 隊長は静かにそう言った。

 つまり、総員三十のうち、五で攻めるということである。


「No.4! No.15! No.22! お前たちと行こう! 他の者は基地に戻れ! ……No.0。お前もファイブに加われ」

「はっ!」


 やった、選ばれた!


 実は私たちモスキートは、生命体を育てるために『血』を必要とする。

 全ては生きるため、生かすためだ。


 絶対、今回の作戦を成功させてみせる!



……



 そう意気込んではいたものの、正直。


「っく。なんて風だ!」


 今回の作戦は無謀にも等しかった。


 獲物を殺すことは簡単である。

 隙だらけだし、いつでも狙うことができるだろう。


 ただ、トラップが多いのだ。


 私たちは攻撃手段として、空中戦をよく用いる。

 いや、本当のことを言うと、空中戦以外に勝ち目がないからだ。


 しかも、ただでさえ空中戦では負けられないというのに、その際に使うは、かなり性能が低い。

 強い風が一度吹けば、飛行は厳しくなる。


「No.0! 裏から回り込め!」


 裏……。

 ああ、そこか。


 私は台風発生装置の真横に突っ込み、切り抜けた。


 他の隊員たちを見ると、皆が台風発生装置から距離をとって、獲物まであと一メートルというところまで接近していた。


 No.22が攻める。

 彼女は羽を上手く使って移動し、標的の首に針を向ける。


 あともう少し!


 そう思った瞬間、標的は動き出した。

 二本の腕を上空へと伸ばす。

 そして、変な呻き声をあげた。


「No.4! 避けろ!」


 隊長が叫んだ。


 標的が両腕を振り下ろす。

 手はそのままNo.4に命中した。


「No.4ォオオオオ!」


 No.22が助けに入る。

 しかし、彼女はその動きを止めた。


 彼女の顔を見れば分かる。

 No.4は……死んだ。


 ああ。

 これが前線の恐怖か。

 体の震えが止まらない、怖い怖い怖い怖い。


 ……でも、戦わなきゃ。


 モスキートの隊員は、世界中に七十億を超えるほど存在している。

 そんな中から見れば、一の死はたいしたものじゃないかもしれない。

 けれども、私にとっては大切な仲間だ! 必ず仇を討ちたい!



 そう考えているのは、私だけじゃないらしい。


 No.15とNo.22がそれぞれ、標的の両サイドから攻めに入った。


「早まるな! 引き返せ!」


 標的が急に両腕を振り回し始めた。

 隊長の叫びは届かない。


 標的の両腕はNo.15とNo.22に当たる。

 どちらも勢いのままに、吹っ飛ばされた。



……



 即死だった。

 皆、あっという間に死んでしまった。


 No.22の死骸は特に酷く、バラバラに散っていた。


「No.0。これが外の世界、人間の世界だ」


 隊長が私に駆け寄る。

 彼女は戦い慣れた戦士の顔——真顔だった。


「隊長……」

「怖いのなら、帰っても良いぞ。ただ私は、生命体のためにも逃げ出す訳にはいかん」


 生命体のため。

 隊長は自分のことなんて考えてもいないんだ。

 ずっと誰か、他を思いやってきたんだ。


「私も……私も戦います! 必ず奴を倒しましょう!」

「ああ、死ぬなよ」



……



 作戦はこうだ。

 私は画面に向き合っている無職の足下を狙って近づき、露出している部分に針を突き刺す。

 その間、隊長は標的の動きを確認し、異常があれば私に伝える。


「ッ! No.0! 右へ旋回!」

「はい!」


 隊長に言われた通り、旋回する。

 それと同時に、丸太のように太い足が動いた。


「さすが隊長……」


 もし、あのまま真っ直ぐに飛行していたら、きっと私は死んでいただろう。

 戦闘経験豊富な隊長がいてくれて、本当に良かった。


「ぐはっ!」


 ふいに何かが打つかってきた。


 ゆっくりと振り返ってみると——。


「隊長!?」

「馬鹿め、右に旋回しろと言っただろう」


 隊長が、羽を半分失っていた。

 モスキートにとって、羽がないということは死を意味する。


「訓練を忘れたか! 右と言えば、指揮官から見て右だろう!」


 そうだった、どうして忘れていたんだ。

 緊張のせい? 恐怖のせい?

 私のせいで隊長が……。


「No.0! 貴様の目的は何だ!」

「私の目的は……血を入手すること、奴に復讐することです」

「ならば落ち込んでくれるな。死んでも戦え、それが私たち弱き者の生きる道だ」

「でも、隊長——」

「いけ!」

「……はい! どうかご無事で!」



……



「お母さん! 隊長さんが遊びにきたよ!」

「こらこら。私はもう隊長じゃないよ」


 心地よく眠っていたところを息子に起こされた。


 なんだか、長い夢を見ていた気がする。

 懐かしくもはかない、とても昔の夢だ。


 私も老いた。

 息子だって立派に育ち。


「お久しぶりです、隊長」

「ああ、本当に久々だな。No.0」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ