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改札をくぐると
いつものように家まで送りたかったけれど、冴子がどうしてもいいというので東京駅の改札をくぐると、冴子が乗った電車が出発するのを見送った。いつもなら家まで送るのに、今夜はもう遅いし、疲れているし、明日の朝も早いからと。とても冴子らしくない言い方で、でも機嫌は良さそうだったからそれ以上主張する気にはなれなかった。
そういえば、今夜はキスをしなかった。というか、寄り添うこともなければ腕を組むことも、手さえも繋がなかった。そういうことを求め、自然にしてきていたのは冴子の方だったか。
改札に向かう途中、夜羽子さんの店が気になった罪悪感はなかったかというと嘘になる。冴子と一緒に改札を通ったのは、夜羽子さんの店に出向かないようにするためでもあった。