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ポリポリと
ウェイターはいそいそと僕のグラスにハウスワインの赤を注いだ。僕がグラスに手をかけると、冴子はグリッシーニを一本取り上げ、真っ二つに折った。
僕は赤ワインを一口だけ飲んでグラスを置き、グリッシーニを手にして齧った。冴子も二つに折ったグリッシーニの片方を齧った。グリッシーニを齧っている間は喋らなくて済んだ。ポリポリと一本を齧り続けるのは、随分と長く感じられた。冴子は僕の目を見たまま、もう片方のグリッシーニを続けて齧った。
そう、僕はずっと言葉を探していた。不自然でなく、逆撫ですることのない、無難な言葉を見つけられずに、なるべく長くグリッシーニを齧っていたんだ。