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新年
「行ってくる。」
パタパタパタと玄関先に向かって背中の方から聞こえて来たスリッパの音は、母さんの足音に似ていた。
「明けましておめでとう。」
ぎょっとして僕は振り向いた。
なにかまずいことでも言ったかと下がり気味の眉毛で自身のなさそうな顔をした親父は僕を見ていた。
「…うん、おめでとう。」
僕は精一杯平静を装ってやっと答えた。
何年ぶりだろう、親父が僕に新年の挨拶をするだなんて。そういえば、新年を一緒に迎えたのは久しぶり、母さんを亡くして以来初めてのことかもしれない。
そんなことを思いながら家を出た。