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玄関先で
なんとなく予感がしていた。扉の向こう側に誰かがいる。玄関を開けると、和美がちょうど帰るところだった。
「お兄ちゃん!良かったぁ。」
僕はなんとも返事ができずにいたが、和美は僕を頭の天辺から靴までを見て、ふうんと悟ったようだった。
「おめでとう。」
「うん、おめでとう。」
和美は違う意味も含めたようだった。そそくさと奥へ上がろうとする僕を堰き止めた。
「もう行くけど、」
「もう?」
「うん…、うちにも親戚は集まってるし、無理にちょっと出て来ただけだから。」
「お節覚えてるか?」
「お節料理?作ってるけど。毎年食べたそうにしてないじゃない。言ってくれてたら持ってきたのに、永倉の。」
「じゃなくて、うちの。」
「うちの?うちのお節なんて永倉んとこで作れるわけないじゃない。」
「だから、覚えてるか?」
「んー…。」
親父は和美を送ったら早々にコタツに戻ってビールを続けるつもりだったろうに、表情を浮かべずに黙って玄関先立ったまま僕らの会話を聞いていた。