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正解のあと
母さんは和美を抱っこして、僕の手を引き寄せてこういった。
「この五つ目のお重にはね、年神さまからいただく福を詰めるのよ。幸せがまだまだここに入って来ますようにってね。」
「そうだぞ、福は重ねるもんだからな。」
父さんは、当時には珍しく酔っていた。和美はいつの間にか泣くのを止め、僕の心は温かさで埋められていた。
「空だ。五の重は、今年の福を詰めるために空にしておくんだ。」
冴子もお義母さんもお義父さんも満面の笑みを見せてくれた。まるで僕が百点の答案を返してもらったばかりの小学生のように、皆が僕を褒めそやしてくれた。
僕は良い気分のまま早々と暇を告げた。
「暇を告げた」って、なんだか古臭い表現だ。母さんの気持ちが僕に乗り移っていたんだろうか。でも、足早に家路に向かったんだ。これは紛れも無い事実だった。