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五の重の中身
「ね、五段目は?」
「シッ。」
「あ…。」
僕の「あ」よりもお義母さんの「シ」がほんの数秒先だったが、僕の頭の中ではちょうど、母さんが決して「四段目」と呼んではいけない「与の重」を取り外したところだった。はしゃぐ和美を追いやって、僕が覗き込んだ五の重には…
「なにもない。」
そう、重の中にはなにもなく、ただの闇が広がっていた。黒塗りが輝かしいほどの真っ暗闇で、真っ黒介だった。
僕より遅れてそれを認めた和美は大声で泣き出した。
先に泣かれてしまった僕はそこに佇んでいた。