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一段ずつ
僕は想い出していた。小柄な母さんがやっと両手を廻して抱えた五段のお重は、顎にまで達する高さだった。それでも母さんはなんとか笑顔のままで居間にヒョコヒョコと運び入れ、待ち切れず騒ぎ立てる僕や和美、皆が揃ってからお重を広げた。
母はビックリ箱を開けるようにイタズラっぽい顔を僕と和美に見せながら一つずつお重を広げてくれた。
壱の重も、弐の重も…僕にはぼんやりで一向に思い出せない。なんだか色鮮やかで華やかな料理で、和美はキャッキャと騒いでいるが、僕にはどれ一つはっきりと見えない。二人は嬉しそうに一段、また一段と重を取り外している。