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珈琲空間
年季の入った重い木の扉にはアラベスク模様が描かれた黒鉄のドアハンドルが高めの位置に取り付けられていた。冷たさに心地良さを覚えながらも手前に引くと、芳しいコーヒーの香りが玄関口にまで広がってきた。野間さんを先に店内へ進ませ、僕も一歩玄関を入ると、背後の扉は吸い込まれるように滑らかに閉じられ、ガチャリと音を立てて楽しいひとときの始まりを知らせてくれた。
六〇を過ぎているであろう初老のマスターは優秀な執事といった体でカウンターの向こうですでにカップを温め始めていた。品の良い笑顔を軽く浮かべ、その顔つきで僕たちをカウンター席へと誘った。