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駅でお別れ
デザートとか、最後の一杯とかいう気分はすっかりなくなっていた。良かったんだろうか、あんな、らしくもないオムライスで。
駅はあんまりにも近過ぎた。
冴子は颯爽としていた。
僕は、グズる理由が見つけられなかった。
ホームへと向かう階段口に着いたとき、冴子は僕の方に振り返った。そして、手を出した。
僕はハッ思って、ポケットから冴子のハンカチを取り出して、彼女の手の平に返してやった。
「ごめん。」
冴子は首を横に振り、口角をちょっと上げて目を細めただけの上品な笑顔を見せてくれた。
「じゃ、ね。」
「うん、じゃあ。」
抱きしめることも、握手をすることもできず、僕は階段を上って行く冴子を見送った。
冴子は振り返ることなく階段を上りきると、ホームの先へと進んで行った。