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一筋の涙
「もう、終わりにしない?」
僕は、間を置いた方がいいんだろうなって思った。取り立てて驚きもしなかったし、ショックも受けなかった。
「そうだね。」
間を置き過ぎない方がいいなとも思った。女の子にこんなこと言わせちゃったって、罪悪感は持ち合わせてた。こうゆうとき、冴子は男前だったりするけれど、女の子には違いないし。涙を流したりはしないんだけど、両目が涙で一杯になってる。
そんな冴子がハンカチを取り出して、腕を精一杯僕の方に伸ばして来た。
あれ、おかしいな。涙か?僕の右頬を伝っているのは。
冴子は俯いたままだった。
店員さんは、終わった皿を取りに来ていたのに、躊躇してテーブルまでやって来なかった。
僕は、冴子の手から淡いピンクの清潔なハンカチを奪い、荒々しく頬を拭ってポケットに突っ込んだ。
そして何事もなかったかのように店の天井を眺めた。