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ご訪問
上の空で冴子の話を聞いてるうちに、家に到着した。良い家なんだよな、入るのは初めてだけど。
門にはちゃんとお飾りがしてあるし、アコードは新年らしくワックスがかけられ、光り輝いていた。
玄関が開くといかにもという感じで台所からスリッパの音が聞こえて来た。一〇数年前まで聞いていた母さんのそれとは明らかにリズムと軽やかさが違った。そして、冴子が「ただいま」を言うよりも前に甲高い第一声が発された。
「いらっしゃい!」
「こ、こんにちは。」
お決まりのようにどもってしまった僕を見定めるように、男着物を着こなした父上が上階から降りてくる出で立ちで、踊り場から見下ろしていた。