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016 連戦⑦

実験的にご提案のタイトルに変更してみます。

これでブクマ上がれば、なろうの『それっぽいタイトル命説』が証明されることになります(笑) どうなんでしょうか。かなり興味があります。





相対圧迫(スカウター)魔法』!

とにもかくにも、相手の脅威度を推し量ってから検討すべきである。

むろん相手がヘラツィーダさんさえも子ども扱いの『化け物』なのはわかっているので、全力で《思惟力(インテンション)》塊を作り出す。自己判断ではっきりとはしないのだけれども、もしかしたら自身の《思惟力(インテンション)》値も若干伸びているような気がする。1割ぐらい大きめに感じる塊を見て、155ぐらいだろうかと仮定する。


(…まあ相手があれじゃ、誤差にしかなんないんだけど)


放った『相対圧迫(スカウター)魔法』は相手の存在座標が移動しても自動的に追尾する。ヘラツィーダさん曰く、主観魔法は本来的に『個人の思い込み』でしかないために、標的を設定するとそれを外すことはありえないのだという。

相手の力を量ることが本願(ほんがん)の『相対圧迫(スカウター)魔法』ならば、必中するのも当然ということ。

2キロぐらい先を暴れまわっている『(ドラゴン)』に、『相対圧迫(スカウター)魔法』が吸い寄せられるように命中する。

遠目でもわかる、ぴたりと挙動を止めた『(ドラゴン)』。

その目が明らかにこっちを見た。タゲられた。


(…うそ……500前後!?)


これから敵する相手の力を知ったことで、全身の毛穴が開くのを感じた。

ぶわっと冷や汗が湧いてくる。


(…まずいまずいまずいまずい……殺される)


相手が同様に『相対圧迫(スカウター)魔法』を放ってきた。むろん逃げることなどかなわずに、その轟圧にさらされる。ただの《思惟力(インテンション)》の塊だというのに、どんっ、と息苦しいほどの風圧と熱を感じた。

相手はゆっくりとこちらへと向かいだした。捕捉されたのは分かっているので、萎えそうになる足をつねり上げて、痛みで再起動を促す。即座に移動しなければ今度はこの一帯が破壊の嵐にさらされる。住民の人たちはもう避難しているかもしれないけれども、こっちに来られるくらいなら工業地帯で暴れてもらってた方がいい。

結局着替える時間もない。まあ警察や自衛隊なんかの目に晒されているこの場所で自重なくはっちゃけるのならば、身元不明なこの恰好のままのほうが何かと都合がいいのかもしれない。

足で移動する不効率に気付いて、空に舞い上がる。

飛行魔法に関しては、《重力子(グラビティ)》魔法で自身の体重を0以下にさえできれば、あとは自由落下の法則に従うのみで、-1グラムだろうが-1トンだろうが速度は基本変わらない。ただ濃密な大気内では、空気抵抗の観点から鳥の羽よりも鉄球のほうが加速を得やすく、自重をよりマイナスした方が初期加速に優位に立てる。

相手の《思惟力(インテンション)》が大幅に勝っているのだとしても、その巨体の質量が冬夜自身と比べて数十倍あるのなら、対比率からいって飛行魔法ではこっちの分がかなりいい。

十分に距離を取りつつ移動する。

ちらりと眼下に避難に遅れたらしい家族を見つけて、その目の前にひらりと降りる。若い両親と5歳くらいの女の子の3人グループである。

相当に焦っているのだろう、家財道具を詰めたトランクを二つも抱えた父親が冬夜の姿に目を見開き、子供の手を引いた母親が「ヒイッッ」とひきつれた悲鳴を上げる。


「こっちは危ないです。向こうに行けば警察と消防がいますから、そっちに保護してもらう方が安全です」


何かとひらひらするミニスカを手で押さえつつ、事務的な口調で避難先を指示する。正気に返ったら羞恥心に顔が火照ってしまいそうなので、父親の反応を待ってすぐに離れようと待ち構えていたのだけれども。


「のえるちゃんだッ」


お団子頭の女の子がずびしっとこちらを指差して、鼻息も荒く声を発した。

それはいまの冬夜にとって最大のNGワードであったのだが、子供にそんなエアリーディングは求められない。

その言葉に瞬きした両親ズも、冬夜の格好がなんであるかに思い至ったようだった。

『鉄槌天使L&L』は子供向けアニメとして《グレートリセット》前に放映されていた作品で、小さい子から大きなお友達にまで大変な人気を博していた。アニメ受難な昨今でさえ、フィルム映画として復活の努力が続けられており、当然ながら一般への露出がかなり高いアニメ作品のひとつであると言える。

手を放して駆け寄ってくる女の子に抱き着かれてその対応に困惑していると、まるでデパートの催事場で子供向けショーを見るような生暖かい目の母親と、若干鼻息が荒くなっている父親の様子に気が付いた。

まずい、時間がないのに妙な安心を抱かれてしまった。

むろんいまこの時も『(ドラゴン)』はこちらに向けて接近中である。いちいち説明している暇はないと、冬夜は女の子を抱いたまま空へと舞いあがり、


「お子さんはわたしが運びます! あとをついてきてください!」


と、強引に避難を再開させることにした。

子供の体重ぐらいなら、冬夜の《思惟力(インテンション)》でもまだ十分に余力がある。が、しかし。『(ドラゴン)』の動きが早くなった。変なところでもたもたしている彼に、攻撃のチャンスと思われたのかもしれなかった。

やばい、両親までは持ち上げられない!

加速する《高位把握野(ハイクルーフ)》が俯瞰するように全体の状況を測りつづけている。『(ドラゴン)』との接触まであと10秒。

一瞬のうちにいろいろな手段が検討されて、そのほとんどが両親の死を不可避のものと判断した。取捨選択をめまぐるしく行い、1秒後に冬夜が到達した結論は。


「狐さん、あなたを取り込みます」

(…急じゃの。気が変わったのかえ?)

「どうすればいいのか手短に教えてください」

(…なんじゃ、『祝之器(はふりのうつわ)』の巫女ともあろうものが、そんなことも知らぬのか。さてはまだ半端な未熟者…)

「いいからっ! はやく!」

(しかたがないのう…)


緩められた冬夜の戒めから、妖狐がするりと這い出し、立ち上がった。むろん冬夜の呪縛が完全に解放されたわけではない。《思惟力(インテンション)》できた思念の縄は融通無碍に形を変え、伸び縮みする。

妖狐が神聖不可侵な、『七瀬冬夜』の魂に座所に首を突っ込んでくる。

そこにある冬夜の『存在核(アニマ)』は、地球が大気という空気層をまとっているように、《思惟力(インテンション)》で内側から膨らんだエネルギー層を形成しているらしい。

その層の中へと鼻先を突っ込み、そしてじゅぼん、と一気に全身を入り込ませてきた。その瞬間、想像を絶する身体的不調が冬夜に襲い掛かった。まるでおのれの肌が風船のゴムのように内側から引き剥がされ、侵入してきた異物によって膨らまされるような激甚な違和感……そして嘔吐感。

急にうぷっとなった冬夜に、女の子が無邪気に「どうしたの?」と問うてくる。

それになんとか「大丈夫だから」と応えながら、吐き気を無理やりに散らす。

そのとき感じたのは、妖狐の発する喜悦……彼がもっと年を経て経験さえ持っていれば、オーガズムとでも表現しただろう妖狐の全身から発される喜びとおののきが熱となって彼の内部を駆け巡る。

ほとんど反射的に異物を排除しようとした彼の耳に、妖狐の声が届いた。


(この『命の器』はそなたの魂があってこそのもの。それを壊せばわらわの愉悦も失われるのじゃ。そのような馬鹿はせぬゆえ、わらわを受け入れ、この増えた力をおのがものとするがよい)


そして冬夜は気付く。

妖狐にまといつかれたおのれの魂が……《存在核(アニマ)》がその質量を純然と増やして、それに比する形でそこから発される《思惟力(インテンション)》の量が大きく跳ね上がっていることに。

思惟力(インテンション)》は《存在核(アニマ)》から発するもの。

それは魂という名の星が持つ、その質量がもたらす事象の地平に対する歪み……惑星引力のようなものなのかもしれない。

普通の人が地球ぐらいの引力であるなら、冬夜のそれは木星クラス、そこに妖狐の質量が強制的に付加されて、太陽になった……そんな感じ。

爆発的に増加した《思惟力(インテンション)》の量に驚く。単純計算通りに500ぐらいに膨らんでいるのかもしれない。

冬夜はすぐに地上に降りて、ふたたび積載物を増やして舞い上がる。両手に父母、背中に女の子を乗せた形で、全員を一気に空中に引き上げた。


「お空飛んでる~」


緊急時にもかかわらずはしゃぐ女の子に、母親は唖然、大荷物を抱えたままの父親はなぜかときめいた眼差しでこっちをガン見してくる。


「…ノエルたそ」


聞こえなかったことにしよう。うん。

一児の親として封印していたのだろう若かりし頃の性癖が目覚め始めている父親にかなり怖気を振るいつつ、スピードを上げる。その飛び立った場所にコンマ数秒遅れて殺到した『(ドラゴン)』が、無人の住居群をその体当たりで吹き飛ばした。まさに紙一重である。

その間に加速した冬夜は家族を無事警察に押し付けると、即座にまた飛び立った。彼らを無用にタゲらせないためには彼自身を『(ドラゴン)』の前に晒させないとならなかった。

足元の警察消防のなかから「ノエルだ」「魔法少女?!」「マジか!」などと叫びが聞こえてくる。熱い視線を感じて、無防備なスカートの中を思い出して慌てて手で押さえる。うわー、また見られてたか。

十分な高さにまで舞い上がり、こちらへと向きを変えてくる『(ドラゴン)』を待ち構える。そのとき頭上から爆音が聞こえてきて、見ると自衛隊のヘリが彼のやや後方上空に滞空しているのが見えた。

そこから顔をのぞかせる隊員たちからも同じような浮かれた声が聞こえてくる。この国はいろいろと闇が深い。

と、そこに。


「きさまは何者だ!」


いつの間にか復活していたヘラツィーダさんが、大剣を構えてこっちを睨んでおりました。

無事だったんですね、と口にしかけた時に、言葉をかぶせられて唖然とする。


「この緊急時に、新手の化け物がァッ!」


ヘラツィーダさん、全く気付いておられませんでした。


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