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008 弱きものの抗いかた

タイトルを再び変更(笑)





目が覚めると、なにやら大騒動になっていた。

痛むおでこをさすりながら身体を起こした冬夜に、同じくおでこを揉みさすりながら涙目になっているでこっぱち隊長木嶋エミリの姿がある。


「そ、そのメガネでか過ぎ」


どうやら頭突きの際に、メガネのフレームに自爆してしまったのだろう。ビン底メガネさんを舐めるからそんなことになるのだ。自業自得である。


「…って、なんですかあの化け物」

「あんたのその安定感というか揺れない心には正直感心するわ。あれ見て取り乱さないとかおかしくない?」

「…いえ、驚いてはいるんですけど」


正常稼動を始めている彼の高位把握野(ハイクルーフ)が、化け物の正体に対する類推を行っており、外形的なそのもののスペックというか脅威度については見切ってしまっていたので慌てる必要を感じなかった……などとは言えない。

付近で認めた化け物2体には、すでにスカ〇ター魔法、『相対圧迫法』を行っている。飛ばした《思惟力(インテンション)》の塊があっさりと相手の《存在核》に到達してしまったことから、少なくとも冬夜自身よりは弱敵であると判断することができていた。


(80~100ってところか……この魔法、イメージを数量化するみたいな曖昧さがネックだよなぁ)


大体の力加減、大体の目分量で測るやり方は、慣れれば速いんだろうけどいまいち冬夜の好みとは合わない。もっとみりみりと精度を求めたくなる彼の細かさは、この術技の改良を今後の課題だと主張している。

2体の不定形の化け物相手に、派手に敵対行動を続けているのは警察の重武装チームである。外出を控えるよう広報されているので繁華街に人の姿はあまりなかったが、それでも出歩いてしまう無思慮な人間や、もともとこの街区に起居する人たちも確実にいるようで、建物の影に学生たちと混じって人垣を作っている。そこに被害を及ぼさないように射線の管理をした上での攻撃であるので、どうしても両者の相対位置は道路に沿った直線上となる。

前列でバリケードを構えた盾役の隙間から、クレー射撃とかで見るショットガンぽいので盛んに発砲する様子はなかなかに頼もしいのだけれども、相手のシールドで大半が弾かれてしまってほとんど効果らしきものが見えない。

冬夜は詳しくは知らないが、国内警察のご用達となっているレミントンM870の12ゲージでは埒があかず、すでにスラッグ弾(単発)での攻撃に切り替わっている。特殊訓練を受けている精鋭である彼らであっても、その攻撃が効いていないと実感が染み渡るほどに表情が硬くなっていく。


(…決め手になる対抗手段がないって、この《特別実習》無理ゲー過ぎるんじゃないの?)


宇宙からやってくる『なにか』の正体が分からなかったから、下田の宗家に放置を決め込ませる程度の脅威度なんだろうと勝手に思っていたんだけれども、これはダメなんじゃないだろうか。

まだはいはい歩きを始めたばかりの赤ん坊みたいな、魔法文明黎明期の地球人にとって、このレベルの『敵』は重すぎる。せめて天朝国(ハインセット)人のサポートぐらいなければ、勝つ見込みがなさ過ぎて想像しただけで吐き気までしてくる。

むろん冬夜が本気になれば、撃退は可能だろう。しかし状況が許す限り、彼は自身の『爪』をひた隠しにするつもりであることに変わりはない。


「七瀬く…」


言いかけた由解明日奈の声に被せるように、木嶋エミリの声が耳を打った。


「あんたたち、《思惟力(インテンション)》の操作に自信はある?」


木嶋エミリは手に持った淡い光を宿した刀身を示しつつ、ぺろりと舌で唇を湿した。


「この《剣》が、今回の《実習》で敵を排除する決め手になる唯一の武器よ。天朝国(ハインセット)製の、ちょっとした《魔剣》なの。…これに魔力を乗せて斬りつければ、あたしたちから見て《上級種族》でも倒すことができる可能性がある(・・・・・・・)


じっとりと見渡してくる彼女の眼差しに、特選部隊の面々はそれぞれに違うリアクションを見せる。

最年長の大学生、渡来(わたらい)さんは事前に配られていたテイザーガンを握る手に力を込めて、隊長の手にある《魔剣》を見つめている。

高校生のふたり、相浦さん(3年生/女)は少し気後れしたふうに文系顔を俯かせ、苅谷さん(2年生/男)はよく分からないけれども自信ありげに腕組みしてにやけている。両者別校らしいのだけれと、ともに生徒会長であるあたりはお察しである。

そして中学生組、ボクサー顔の不破は状況が良く飲み込めてないんだろう、「すっげえ、《魔剣》かよ」と隊長の持つ剣を涎を垂らさんばかりにガン見している。

横にいる由解明日奈は言葉をさえぎられたことにカチンときたようで、冷ややかな眼差しをまっすぐに隊長に返している。


「あんたたちにやってもらいたいことがあるの。…あんま成功とかはしないけど、たまにムカつくぐらい強い『上』のやつらでも喰える、取って置きの裏技(・・・・・・・)を見せてあげるわ」


あんまり成功しないとか、正直に言わなくたっていいのに。

国内最先端をいく魔術学院の上位ランカーとして、木嶋エミリという少女は状況を打開するための切り札を切るようだった。




「…あの馬鹿馬鹿しくなるくらいに簡単に弾丸をはじいちゃってるのは、上の世界では《主観魔法》とか言うジャンルの魔法で、あの防御型のは《シールド魔法》に分類できるヤツだと思う」


つぶやきながら、木嶋エミリは目配せをする。

その振りに、打ち合わせたとおりに特選部隊の面々が所定の位置に移動開始する。


「《思惟力(インテンション)》で身を守る防殻を作っているの。物理的に硬いのを作る場合もあるんだけど、たいていは素の《思惟力(インテンション)》で層を成して、接触してくる『脅威』に対して、ほとんど自律的に『意味の壊乱』を起こすことによって効果を得ているらしいの。例えば受けた攻撃のエネルギーを《思惟力(インテンション)》で変換して、本能的に望ましい別の無害な状態に強制的に置き換える……《シールド魔法》系なら、攻撃の衝突判定(コリジョン)に干渉して無理のない角度に受け流す作用が発生する……んーっとね、そこのバカにでも分かる言い方にすると、本来なら身体に命中していた弾を、『跳弾(ちょうだん)』判定にしてしまうズルみたいな魔法ってことよ」


どうやら下田の魔術学院では、一般にはグレー扱いの《主観魔法》についてちゃんと教えているらしい。素直に感心しつつ聞き耳を立てているうちに、全員が定位置についた。

特選部隊が配置についたことで、重武装チームの射撃がぱったりと止んだ。

そちらをみれば、盾の列の後ろで、銃手が装備の交換をあわただしく行っている。そしてその手に抱えられたのは、真っ黒いごつい銃だった。

M4というカービン銃であるのだが、対宇宙人戦で必要なのは単発での破壊力であり、この際の主役は銃身に取り付けられたM203A2グレネードのほうであった。

木嶋エミリとチームリーダーとのアイコンタクトで、その恐るべき初弾がクリーチャーに向けて吐き出された。

頭の出来があまりよろしくないらしいその緑色のクリーチャーは、物陰に伏せている別働隊の射撃により進退を制御されており、そのときも後ろからのつまらない攻撃に身体を翻したところだった。

そこに命中して爆発する40mmグレネード弾。

もしかして倒せたかも……すがるものが旧文明の通常兵器しかない大人たちが、そう期待してしまうのは仕方のないことであったのかもしれない。

が、爆発が吐き出した白煙の向うからまったく無傷のクリーチャーが姿を現すと、警官たちの表情が引き歪んだ。


「…いまよッ!」


木嶋エミリが叫んだ。

そうして冬夜たちが一斉に手にしたテイザーガンをクリーチャーに向けて発射した。《電気系魔法》としては難易度の高いテイザーガンによる電撃を、選抜メンバーたちは当たり前のように成功させた。

クリーチャーと冬夜たちの距離はわずか数メートル。身動きの鈍い相手でなければここまで近づく気にはならなかっただろう。


「はあああぁぁっ!」


驚き固まるクリーチャーの背後から、《魔剣》を構えた木嶋エミリがいっさんに駆け寄っていく。それを見守りつつ《ショックガン魔法》を発動し続ける。

そうして全員でクリーチャーのリソースに、かなう限りの負荷をかけ続ける(・・・・・・・・)

彼女の見解はこうだった。


「…生き物がいっときに引き出せる《思惟力(インテンション)》は限界がある。魔法を使った瞬間に魔力が回復するわけじゃないのは知ってるわよね? 《存在核力(アニマ)》から引き出されてくる《思惟力(インテンション)》は、回復までにけっこうな時間差がある(・・・・・・)わ」


《シールド魔法》は純粋な《思惟力(インテンション)》で構成される。

攻撃に対処すれば、それだけ分は確実に消費されて消えうせる。

効かずとも恐るべき威力を放ったグレネード弾。

そして特選部隊による一斉の《ショックガン魔法》。最低でも部隊員全員の《思惟力(インテンション)》の総和分は、相手のそれを『喰った』と思う。

部隊員の《ショックガン魔法》で約60、それだけの《思惟力(インテンション)》を奪うことができていたなら…。


「いっけぇぇぇっ!」


木嶋エミリの《魔剣》が、クリーチャーの同体を半ばまで切り裂いたのを冬夜は呆然と見つめ続けていたのだった。


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