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004 ルプルン家鳩首会議




その日の夕刻、ばらばらになっていたルプルン家の家人たちが再集結を果たした。居間のちゃぶ台をはさんで、ひと仕事こなしたとばかりに胡坐をかくカグファ王女が大きく伸びをした。

天朝国(ハインセット)人にもちゃんとのどちんこはあったりする。


「いろいろとめんどくさかったが、戦果は大量じゃ。あやつら大盤振る舞いであったわ」


生産性の乏しい居候でしかなかったおのれが、大量の手土産を持ち帰ったことで結構鼻高々なのだろう。得意げにない胸を張る。

まあたしかに何やかやとたくさん持ち帰ってきたものだ。

まずは大量の花。七瀬家の居間どころか、玄関や台所にまで、使わないビンや徳利とかで急造した花瓶で、色とりどりの生花が飾られている。今朝黒塗りの公用車で、寝癖の髪の毛をはねさせたままカグファ王女は官邸へと拉致されていたのだけれども、夕方ごろに丁寧に送り返されてきて、その際に抱えてきた一部がこれらの花であった。


「見よ! この土産物の茶葉もなかなかの香りじゃ。フィフィのところにも融通しておる茶葉だそうじゃぞ。マルコ紅茶と申すそうじゃ」

「ふうわりとやわらかい香りでございます。…その茶器のセットも?」

「この国で有名なブランド品じゃそうじゃ。名は確か……オー……あまり覚えてはおらんがオークなんとかと申すメーカーのものじゃ。派手さはないが品がよい作りでなかなかのものじゃろう」


そして花だけではない。

確実に幼女の胃袋を掴みに来ていると分かる贈り物の数々。

紅茶に始まり、甘いクッキー類や饅頭、生チョコレート、漫画でしか見たことのない棒付きの丸いペロペロキャンディ、貴重な北海道産の生クリームをたっぷり巻いた某有名店のロールケーキとかも山積みになっている。


「…わらわは『隠し玉』にしたいそうじゃ。当日にカンテイと申すところに詰めておるのが仕事だそうじゃ」


どうやらカグファ王女は、国の政治中枢の万一の危機対処に引っ張られるようである。当日の総理官邸は安全を求めた与党政治家ファミリーで大混雑するのだろう。


「わたしはどうやら国軍の一部隊に魔術顧問として従軍することになるようです。ジエイタイとかいう組織の、魔術特科連隊(MSR)(Magic special regiment)なる緑色の者たちの部隊でした。なかなか貪欲な、いい目をした奴らです。肝心の素養は残念なやつらでありましたが、わたしの調練にひとりもへばらずに最初からついてきたのは評価に値いたしました」


ヘラツィーダさんが金髪の上に乗っけている迷彩カラーの帽子は、どうやらその部隊配属時の支給品らしい。ルプルン家の最高戦力は自衛隊特殊部隊の最終兵器になるようです。

なるほど、電子装備はほぼ無用の長物と化しつつも、電子戦に対応した自衛隊の機動装備はその動力を単純な内燃機関で構成していたために、ジェット機以外は機動力を辛うじて保っている。(デチューンな特殊整備でヘリとかは飛んでいる) その高記動力で、ヘラツィーダさんの魔術戦闘力を効率よく使い倒す気らしい。


「オレたち、姐さん、守る、いいか」


ルプルン家首脳がくつろいでいる居間の隅に、元『七つ髑髏(セブンスカル)』幹部の熊吉、健太、ルイが並んで正座している。熊吉が大きなガタイを揺らして身をかがめてくる。目線の高さを冬夜に合わそうとしているのだ。

ほかに戦力になりそうな配下がいるのなら、地元警察に協力してくれとも言われていたのだけれども、こいつらはもともと半分犯罪者のような不良グループであるし、いまは完全に心を入れ替えた(鬼軍曹に染め上げられたが正しい?)のだとしても、堂々とルプルン家の人間として公表することはできない。

出すとしたら、ヘラツィーダさんか冬夜自身がトップとして彼らを押さえた形で行くしかないのだけれども、いまはどちらも手が空かない。

向上した魔法能力で、過去の贖罪をするように冬夜から厳命されている彼らは、この商店街周辺でもっぱら奉仕活動を行っている。拠点である『七ツ屋』やスーパーなどでバイトしつつ、ゴミ拾いに草抜き、廃品回収の手伝いに独居老人の話し相手など、商工会などと連携して地域密着で活動している。笑顔でボランティアにいそしむスポーツ刈りの青年たちはおおむね受け入れられており、婦人会のおばさまたちの受けもいい感じになっている。

ルプルン家が全員出動するほどの事態に、役に立ちたいと熱望する彼らの姿は、まるでおバカな犬っころのようである。見えない尻尾を全力で振っている。

地元警察への協力を断ってしまった手前、彼らをどうやって活用するかはかなり難しい問題になってしまっているのだけれども、このまま放っておいたら冬夜たちの《合同実習》に『好意』で乱入してしまいかねない。

ちらりとヘラツィーダさんを見るが、むろんのこと自衛隊の組織にぶち込むなど端から無理である。官邸に詰めるカグファ王女に付けるのも同様に無理すぎる。

うーん。消去法からいって、管理すべきはやはり冬夜ということになる。

ぽく、ぽく、ぽくと、とんち小僧の思考ルーチンの効果音が続いた後、腕組みして天井を見上げていた冬夜は、ポンと手を打ち合わせて彼らに向き直った。


「当日は、全員マスクしよっか」


困ったときのマスクマン。

匿名希望の正義の戦隊。

このあたりの発想は冬夜の個人的好みが反映されており、かなり残念なことになっているのだが、本人には無論自覚などかけらもない。

そして命じられた彼らもまた、歳は違えどメンタリティは似たり寄ったりなところにあったらしい。全員マスクで正体を隠して、この地域に敵がやってきたら身を挺して平和を守れ……そう命じると、うおお、すげえ! とちょろいぐらいに盛り上がった。


「ナイスアイディアだぜ姐さん!」


少々困惑しているルイをのぞいて、熊吉と健太はガッツポーズで喜びを全身にチャージしている。さっそく用意しますと飛び出していくふたりを後から追い掛けるルイ。かなりいやそうであった。

この後で判明するのだが、この時の冬夜のイメージは「メガネマンと仲間たち」であったのだが、彼らのイメージは「うれし恥ずかし戦隊ヒーロー」であったようである。そして結果として現実に出力されたのは『ショッ〇ー軍団』だったという悲劇もおまけについてくる黒歴史(レジェンド)…。

むろんそんな未来までは冬夜の高位把握野(ハイクルーフ)でも読み切ることはできなかった。




…まあ手下どものことは置いておくとして。

冬夜は思案する。上のふたりの危機感の欠如が苛立たしいものの、翌朝に迫ったこの国の危機的状況に際して、弱小のルプルン家は組織としての体をまったく成し得ない分断状態になることがこれで確定した。

カグファ王女は官邸守護。

ヘラツィーダさんは自衛隊の与力に。

そして自分はよく分からない《合同実習》に強制参加…。

タイミングが悪かったとしか言いようがないものの、大人世界の汚い便宜供与を受けてしまった手前、スポンサーには自分たちが『使える存在』であることを証明して見せなければならない。今後の予算獲得のためにも、駆り出される上のふたりには無理を承知で踏ん張ってもらわねばならない。

結果としての分断。

まあこれはもう仕方ないと受け入れるしかないのだけれども。


「…明日がどんなことになるのかまったく想像もできないんですけど、もしも収拾もつかないくらいの大災害になって緊急の判断を仰ぎたいときは、どうすればいいでしょうか」


下田のフィフィ王女が、現地民に解決を振ってしまうぐらいだから、『災厄』自体はたいしたものではないだろうという予想はつくものの、なにごとにもイレギュラーはあり得るものであり、最悪の場合を想定して備えておくべきだろうと彼は考える。

緊急の場合の連絡手段を用意しておくことは必須であった。


「会話なら、思念波を拾えばよかろう」


懸念を口にすると、カグファ王女がこともなげにそう言った。

いわく、思念波とは、《存在核力(アニマ)》が発する《思惟力(インテンション)》に、微妙に含まれる波動のことらしい。つまりは電波なんかと理屈は同じで、その人物の考えていることなどが、《思惟力(インテンション)》の放出波に乗って世界に拡散しており、それを受け手側が意識を集中して拾い出す、という術技で、ようは『テレパシー』のようなものではないかと冬夜は仮定する。

少しだけ意識を集中すると、たしかに糸電話の向こうで誰かがしゃべっているような感じで声が聞こえてくる。えっ、これってもしかして心を読み放題? とか思った冬夜が慌てだすと、カグファ王女ににやにやと笑われた。


「遠くまで届くのは、強い《思惟力()》に乗った声だけじゃ。近くにいるのならばたしかに読み放題じゃがな」

「………」

「安心するがよい。むやみやたらと他人の心を読むのは礼儀作法で禁じられておる。会話するときは、まず周りにひとこと断りを入れてからというのが最低限のルールじゃな」

「勝手に読まれてもそれとなく分かる。礼儀知らずは恥をかかせた相手から報復されても文句はいえん。報復は儀礼的に必ず行うことが奨励されている……心をタダで読ませるものは、舐められても仕方がないからな」

「………」

「だれがおぱんつ幼女じゃ」

「…無断で読んでる人がいますけど」

「いきなり『試して』くるとは……恐ろしいメイドじゃ」

「目上の者に対する礼儀がなくなってきているぞきさま」

「礼儀作法で禁じられてることをへっちゃらでやってる人がいるのがそもそもダメなんです! 今までだってこっそりやってきたんでしょう! きっちり反省してください!」

「「えー」」

「…それじゃ、報復として『晩ごはん』抜きにします」

「「それはオーバーキルじゃ(だ)!!」」


まあ冗談はそれぐらいにしておいて。

結局当日は、思念波での定時連絡という形で、家人全体の動きを冬夜が把握していることとなった。マスクマン軍団も彼の近くにいることになるだろうし、彼が管理するのがまあ順当であった。

あとの心配は……主にマスクマン軍団が不安なのだけれど……家人の生存に関わるような危機が発生した場合、すみやかに戦力がそこに駆けつけられるかぐらいだろうか。バイクとか運転できたらマジで仮面ヒーローみたくかっこいいんだけど。


「そんなもの、飛んで行けばいいじゃろう」


またおぱんつ幼女が、簡単に言ってくれました。


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