027 再測定
プレビューが急に倍くらいになりました。
われながらやらしいタイトルだなと思っていたのですが、「なろう的」というのはこういった面ではやはり正しいんでしょうね。
ビン底メガネさんの存在感、マジ半端ないです。
バレてます。
もうなんか全校的にバレてしまっているような感じです。
「七瀬。…ちょっとこっちへ来てくれないか」
午後の実技授業。
クラスの実技指導を担当している左門という先生に呼ばれて、ついていくこと1分ほど。職員室横の、以前担任の平岩女史にカンニング疑惑で呼びつけられた生徒指導室に入ると、そこにはなんだか見覚えのある機械が置いてあった。
彼の到着を待っていたのだろう、保健の筧先生がいつもの白衣で立っていた。
「通常ならこんなことはしないんだが、七瀬には一度再計測をしてもらう」
機械は年一で見ることのある、各学校に設置されている能力測定装置であった。
天朝国の技術指導の元に国内開発された測定装置で、理屈は簡単、理科の実験で見たことのある『光風車』を、『C』でおなじみの視力測定器とコラボレーションしたようなものである。
真空化したガラス管の中に、負荷調整した金属風車が方形に100個ナンバリングされていて、回せた風車ナンバーで魔法操作し得た《電磁力》量を推定、《思惟力》値化するというものである。
そして機器と一体化した椅子に座らされ、半キャップ型のヘルメットを付けられる。こちらには《思惟力》を直接判定できるという、天朝国から配布された感応水晶が入っている。《思惟力》の受肉器官である脳組織を覆うことで《思惟力》の状況を拾い、水晶が光る仕組みだ。
回る光風車の数と水晶の輝度をあわせて、《思惟力》の推定値が確定される。
「たまに測定に手を抜く生徒がいてね、それが将来どれほどマイナスになるのかも知らずに、『恥ずかしいから』とか言って全力を出さなかったりするの。残念なことにそういう生徒に限って、実際は優秀であることが多いのよ」
肉付きのいい頬を揺らして、小太りの筧先生は笑ってみせた。
促されるままに居住まいを正し、ヘルメットの据わりを調整する。その間に、繋がっている職員室から先生方がぞろぞろと入ってくる。『七つ髑髏』の詫び入れ事件は、それほど職員室の話題になっていたのかと、内心盛大なため息をつく。
「手を抜いちゃダメよ。これだけの先生方が見ているんだから、絶対にバレちゃうわよ。…そう、そうやって一度深呼吸して、右の風車から順に回していってみなさい。まずは『3』よ」
言われるままに、『3』の風車に意識を集中する。
このガラスケースに密封された光風車を回転させることで力を計測するアイディアは、人類がまだ心の大部分を科学に支配されていなかった時代、実際に存在した秘密結社が訓練として使用したといわれる『エナジーホイール』というものからきているらしい。
負荷が《思惟力》値3で扱える調整の風車である。むろん確認の意味を込めた指示である。
(…もうぼくが『メガネマン』だという前提で事が始まってるし……ここはもう割り切るしかないのかな)
浮遊する《電磁力》をもてあそびつつ、冬夜は考え続ける。
ここで頑なに一般人であることをアピールし続ける手はあるものの、すでに生徒会長の由解明日奈には尻尾を掴まれてしまっているし、この衆人環視のなかで手を抜くのはいささか以上に難しい。総《思惟力》140といわれているいまの冬夜にとって、一般レベルの3~5ぐらいの出力というのは、まさに誤差でしかない。肺活量の検査をしているときに、普段の呼吸ぐらいしか吹き込まない生徒がいたらそりゃバレる。それに能力測定のあるあるで、『3』の風車を回そうとすると、普通なら両隣の風車も多少は影響されるわけで、関係なく回ってしまうことがよくある。検査指導員も、その両隣の動きを見て、次の指定風車を決めていく。被験者の『余力』のある程度のあぶり出しができるのだ。
仮にここで能力を隠しおおせたとしても、常に疑惑は付きまとうだろう。まだこの学校での生活が1年以上も残っているのだから、その辺を始終チクチクされ続けるのは非常にストレスなことだろう。
ならばここは全力でいってみる、という想像をする。
(…いやそれだとソッコーで魔術学院に連行されるような気がする)
下田租界の王立魔術学院はおそらく全校生徒の垂涎の進学先なのだろうけれども、後見人である祖母の留守を預かる身としては、家を空けるわけにはいかない。あとどれだけ持つか分からないといわれている祖母の見舞いのことも考えると、ここから離れることは是が非にも避けたいところ。
つまりは、能力を程よく公開する、というのがベターということになる。
ではその『ベター』な線とはどのあたりになるのだろうか。
日本という国の平均《思惟力》値が大体『3』、魔法教育を受ける機会のあった未青年はそれがやや高い値となり、中学3年、上級生のトップグループは由解明日奈が例えで持ち出していた《思惟力》値『8』のダンゴを形成しているのだと仮定して。
(『7』ぐらいが角が立たなくていい感じなのかな……ああでもここの先生たち、『七つ髑髏』の手下たちと校門で直接やりあってたっけ……そうなるとこれは相対的なバランスを考えないと。あの人たち魔法で悪さするのが得意な分、《思惟力》の扱いも長けてたし、5、6ぐらいはあるのかな。…ということはその複数人を撃退できる程度の力はほのめかしとかないと……あの幹部連のリーゼントさんぐらいかな……それなら『12』あたりが落としどころなのか)
彼が考えている間にも、『3』の風車が問題なく回る。
ちらりとこちらを見た筧先生が、次に指示したのは『8』の風車。どうやら上級生のトップグループが『8』あたりという仮説は正しかったようだ。
(…でもうちみたいな普通の中学から王立魔術学院に進学したみたいな話はほとんどないし、たぶん魔術学院の採用レベルは10以上……それもぎりぎりとかじゃなくて後半あたりまでぶっちぎってないと、そんな狭き門は通らないはず。だって、外国のゴロツキレベルでしかない骸骨キングが『27』なのだから、『10前半』ぐらいの才能に魔術学院が食指を動かすとも思えない。その証拠に、リーゼントとベ〇が『12』と『14』で選抜もされずに腐ってたんだから…)
ならばベ〇の『14』あたりがいい線なのではなかろうか。
いや、『10』ぐらいにしといて、まだ伸びシロがありそげな雰囲気でお茶を濁すのがよい気がする。うん、それでいこうか。
冬夜は検査装置の風車にようやく本格的に意識を向ける。
『8』の風車に向けての《電磁力》投射を加減し始める。
『10』まではこともなげに回せて、そこで足踏みしてみせる。『11』以上は回せそうで回せない。そんな感じにいこう。
高位把握野の扱いに習熟しつつある冬夜にとって、精霊子の精密制御はそこまで難しいことではない。
ガラスケースを通して風車に《電磁力》の光がささやかな流れになって当たっていく。風車にわずかに掛けられた負荷までが、触感のように伝わってくる。
「次は『10』…」
『8』の風車が回ったあたりで、先生方に感心したような嘆声が漏れた。
そして『10』の風車まで回ったときは、はっきりと驚きの声が上がった。
冬夜はそこから細心の注意を払う。
『8』を回したときは、隣の『9』の風車も判りやすく揺らして見せた。その余力サインに、筧先生は指示を『10』に飛ばした。
そして『10』の風車を回したときには、隣への干渉を極力弱める。それ以上の可能性を感じさせつつ、そこで終了的な按配の結果を作り出す。
「いちおう『11』も回してみてください」
「…はい」
唇をぎゅっとして、力を込めるそぶり。
揺れはするが回らない『11』の風車。その隣の『12』の風車も、わずかに揺れる。
「…判定は、『10.5』です」
筧先生の言葉に、ざわめく先生方。
なんとか偽装をやり終えたとほっと息をついた冬夜であったが…。
「…しかし感応水晶の輝度判定では、『20以上』を示しています」
どっと周囲が沸き立った。
えっ、『20』!?
そこで冬夜は頭にかぶったヘルメットを取り外して、その頭頂部に露出するレンズ状の水晶を見る。《思惟力》に反応した残滓ともいえるわずかな光を含んでいる天朝国のオーバーテクノロジーは、隠しおおせたと思われていた冬夜の能力の一端を見抜いて見せたのだ。
呆然とする冬夜の肩に後ろから手が置かれた。
振り向くと、そこにはにこやかな笑みを浮かべる担任の平岩女史の姿があった。そこでなぜニギニギと肩を揉まれるのかよく分からないのだけど。その「わたしだけは分かっているのよ」的な目配せにどう反応したらいいんですか。
「これは今年の各校発表会……わが校の隠し球になりますな!」
これはまさか。
失・敗、というヤツなのでしょうか。




