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024 姉さんの姉さん






地球でも宇宙でも、ホウ・レン・ソウが重要であることに変わりはないようである。


「…そうか、引き入れることにしたか」

「現状の当家が人手不足なのは否めませぬ。駆除するは容易きことですが、敢えてこれを自陣に取り込み、現地二次戦力として活用するがより上策と判断いたしました」

「うむ、大儀であった。以後の措置はヘラ、そのほうに任せたぞ」

「御意に」


そんな時代劇っぽい『THE・上奏』みたいな一幕があって、主従抱き合いながら過去の苦労を思いお互いの肩でほろりとする小芝居が七瀬家の狭い居間で行われる。当事者たちには感動の場面であるのかもしれないのだけれども、寸前までカグファ王女がゲームに興じていたのを目撃している家主としては、共感する要素は1ミリグラムとてない。

キッチンに立つ冬夜の目の前には、コンロの上で煮立つ夕食がある。

オタマで掬った出汁を口に含んでみて、塩を少しだけ追加する。

湯気で曇るのを嫌って、さすがにビン底メガネは外している。


「…なんであの人たちまでうちの食卓に」


ビン底マスクからお伽衆メイドへと華麗に変身を果たした冬夜は、ぐつぐつと煮立つ鍋に目を落としながらため息をついた。

家主としてここは強く主張すべきだろう。

七瀬家のちゃぶ台にコタツまで持ち出して、拡張された食卓に招かざる面子が並んでいる。


「…兄貴、いえ姉さんの手料理がいただけるとはマジ感激です」


ちょっ、ちゃぶ台の上でお辞儀するとリーゼントがこすれてポマードがつくから!

よく見たら超ギットギトだから!


「お姉さま、ご飯の準備も整いましたので、そちらのカセットコンロの準備をいたしましょう」


いやだからベ〇さん、あんたのほうがぼくより年上ですって何度言ったら……ああっ、カセットの向き反対だしっ! 使い方わかんないなら出しゃばんないでキング!


「申し訳ありまセン。ロシアではもうこんなの使ってまセンんです」

「ダメだって、無理やりに力任せに入れないで! 壊れる壊れちゃうから!」


何このカオスな状況は。

スカジャンリーゼントとベ〇と骸骨キングが、かなり殊勝な面持ちで食卓準備に追われていたりする。




夜も遅くではあったんで、家に入るこいつらの姿は見られていないとは思うのだけれども。

つましい予算で準備される七瀬家の夕食、鰯のつみれと大根とゆで卵、そして大量のもやしが投入された鍋とご飯。急遽増えた人数に対応した鍋料理であったが、下に敷いた昆布がいい仕事をしてなかなかの味に仕上がったと思う。

わりと量もあったのに汁の一滴まで雑炊に吸わせて食い尽くしたルブルン家一党は、やり遂げたような顔をして顔を緩めている。

片付けにすぐに立ち上がったベ〇、あんただけは評価してもいいけれど、いちおう精神衛生上のこともあるので、カグファとヘラツィーダの前に膝をつめて、引っかかりまくりな懸念をはっきりと口にしておくことにする。


「まさかこの人たちまでうちで寝泊りさせる気ですか」

「いかんのか?」

「………」


マジでした。

《グレートリセット》後の3年余り、住所不定無職で放浪の旅をしていた主従ふたりはまあ分かるとしても。原住民である『七つ髑髏(セブンスカル)』の幹部連は人としてちゃんと暮らしてきた現住所があるというのに。

拾ってきた子犬のように飼う気満々でした。

住み込みとかほんと論外なんだけど、仮にそんなことにでもなった日には、人相の悪い人間が四六時中出入りして、七瀬家はご近所でもアンタッチャブルな魔窟になってしまう。留守を預かる孫として、七瀬家の平和を守るべく立ち上がらねばならないときであった。

あまりにも考え無しなバカな居候(うちゅうじん)を、虫でも見るような冷ややかな眼差しでねめつけて、帰るべき家も家族もある3人をわがままで引き止めるなんてという理屈を軸に、つけつけと物申す。

そして食い意地の張った居候をふたりも抱え込んで台所が火の車だと、そもそも生活費が枯渇している現実を思い出させて、説教イン説教である。

泣く子も日本政府も黙る天朝国(ハインセット)人相手に、涙目になるまでぐいぐいと追い込む日本人形のように美しいメイドを、招かれざる客たちが啞然と眺めているのにもこのときは気付かない。

途中で言い返しかけたヘラツィーダを畳のひと叩きで沈黙させ、わがままのひとつも言いたいのならちゃんと生活費を入れろとバッサリといく。

見かねた骸骨キングが「あの…」と、蚊の鳴くような声で割って入ろうとしたところをきっとひと睨み。「ちょっと黙ってようね」とにっこりと愛想笑いされて、全員揃って俯いて畳の編み目を数え始める。


「えっ、差し入れしてくれるの?!」


結局OHANASHIのループを断ち切るべく、『七つ髑髏(セブンスカル)』リーダーから食料品を定期的に差し入れてくれるという夢のような提案を受けた。えっ、マジで? とたんにぱぁぁっと花の咲くような笑みを見せたメイドに、一同が安堵のため息を漏らした。

冷静に考えればその筋の組織の『上納金』のようなシステムなのだけれども、それが金銭ではなく食べ物という形で渡されるというので、冬夜は少しだけ悩んだあと、背に腹は変えられぬと骸骨キングの手をとった。

見えない尻尾をぶんぶんと振りまくっていたことだろう。

「悪いことして手に入れたのはダメだからね」との念押しもいちおう忘れない。向けられたこの世のものとも思えない美少女の笑みに、3人は残念なものを見るように目を泳がすのだった。


結局、ルプルン家の現地協力組織として傘下に収まった『七つ髑髏(セブンスカル)』は、従属する見返りとして天朝国(ハインセット)式の魔法訓練を施されることとなり、なし崩しに組織の拠点が七瀬家のあるシャッター商店街の潰れた小料理屋の跡に入ることとなった。

順法精神に乏しい不良グループにそうした訓練を施すのは、犯罪者に凶器を渡すようなものではないのかと冬夜は懸念したが、どうやらそのあたりは非常に効果的なノウハウがあるようで、ヘラツィーダに一笑に付された。

もしやロボトミー的な禁断の魔法でもあるのかと思ったのだけれども、実際に訓練場となった深夜のスーパー駐車場で、ヘラツィーダが明かしたそのノウハウとは、精神高揚の《やる気魔法》と鬼軍曹の地獄の軍隊調練であった。

『七つ髑髏(セブンスカル)』の面々は、血反吐を吐く猛特訓を《やる気魔法》の脳内麻薬で誤魔化されて、術者としての能力促成と同時に軍隊式の縦の関係を骨身に刻まれていくことになる。



***



「おはよ、冬夜……っと」

「あっ、メガネ返して…」

「…ちょっとじっとしててねー、…ふわあぁぁ、超良質のショタ成分がリアルに目から染みてくるこの感じA5級!」

「意味わかんないし!」

「はふうう、堪能したわ。ご馳走さま」

「砂姫姉が嫌すぎる…」


いつもの登校が始まって、ふたりは地元の商店街を歩き始める。

ちらほらとある開店準備を始める人の姿と、行き交う商品を積んだ電動軽トラックや大復活のリヤカー。商店街らしい、町そのものが起き出し始めているような空気感が気持ちいい。


「なんだか最近、商店街で店を開く人が増えたんだって。…この前もうちの近くで小料理みさきの居ぬきで店がオープンしてたし、なんだか少し賑やかになった感じがするわね」

「ふーん」


居心地悪そうに目をそらしている冬夜に気付かず、砂姫は手を引いてどんどんと歩いていく。

『七つ髑髏(セブンスカル)』が密かにアジトを設置した小料理屋は、あのベ〇が濃い化粧を薄めにして、ほんとうに店を出してしまった。実は料理が得意だと判明した彼女……戸来(へらい)ルイという名前だそうだ……に、カモフラージュとして店の切り盛りをさせることになったのだ。

どこからどういう資金が出てくるのかは怖くて聞けないのだけれども、組織というものはなんやかんやで資金力を保持するものらしい。ちなみに店の名前は『七ツ屋』、路地野菜たっぷりの焼そばとお好み焼き、そしてなぜか酒の品揃えが充実している。幹部連いわく、本家にいつでも駆けつけられる兵隊の詰め所なので委細お気になさらず……とのことである。

まあともかく。

『七つ髑髏(セブンスカル)』なんていう不良グループが集まってきているので、近頃通りではよく危なそうな格好の輩を見かけるのだけれども…。


「…最近やばそうな人も多いんだけど……なんでか頭下げられてる気がするのよねえ」

「……ふーん」

「この前交差点でぶつかりそうになったとき、「姉さんの姉さんッ!」って驚かれて、そのあとうわって走って逃げちゃったし」

「………」


コメントは差し控えます。


リアルが忙しくてやたらと眠い…

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