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023 ビン底仮面参上!⑥



さて。

なんとなく予想はしていたのだけれども、いま冬夜は骸骨キングと相対するハメとなっている。

能力を示せ、で部下と戦わせるというのは展開としてある意味テンプレートではあるのだろうけど。彼のことも天朝国(ハインセット)人だと思い込んでいた骸骨キングに、当初戦意などかけらも残ってはいなかったのに、余計なことを教えるものだから要らぬ手間が増える。

冬夜が同じ地球人であると分かったとたんに、単純なもので戦意を無駄に高ぶらせてしまった。


「こいつに勝つことができたら、栄光あるわが騎士団に正騎士として引き上げ、その力を思う存分振るわせてやろう。遠慮は無用、殺すつもりでいってかまわないぞ」


その煽りは、冬夜の能力を十分に買ってのものなのか、強さ至上の脳筋が吐き出させたものなのか。気配的には後者が濃厚である。

明らかに傷害罪(そっち)方面で『童貞』ではなさそうな骸骨キングが、わが意を得たりとばかりに口の端に笑みをこぼしている。そうして取り出した得物がほんとうに鉄パイプだったのには驚いてしまった。しかも持ち手にゴム手袋つけてきっちりと絶縁している。

かくして決闘は始まった。

じゃりっと足を踏み出す音が聞こえたと思った瞬間、ヤツは猛然と突っ込んできた。数メートルを駆け抜ける間に振り上げられた鉄パイプが、冬夜の頭蓋を粉砕すべく渾身の力を込めて打ち下ろされてくる。驚くことにまったく躊躇のない殺意がそこにあった。

冬夜ならば持ち上げるだけで身体の揺れそうな重い鉄パイプを、玩具のプラバットのようなあっけなさで振り回しているあたり、骸骨キングの膂力は恐るべきものである。空き瓶の口に息を吹きかけたような唸り音が、避けた冬夜の耳傍をかすめていく。

まあしかし身体能力がはなはだしく向上している冬夜にとって、それは避けるに容易な大振りでしかなかった。

ともかくひと呼吸置こうとバックステップした冬夜であったが。


(…ッッ?!)


何かに胸を押されるような感覚に気付いたときには、予想以上に体勢を崩されて後ろに転んでしまっていた。


「ウラァァァッ」

「…くっ」


そのまま尻餅をついていたら次の攻撃に備えられなくなる。

ゆえに転がる勢いを殺さずに後転して綺麗に立ち上がる。骸骨キングはもうそのときには連撃に入っていて、逆手に切り上げるように鉄パイプを振り上げていた。

今度はかがんで避けようとしたが、そこで再び予想外の圧力が加えられる。

前屈みしようとする上体に、空気のクッションが抵抗するような圧力が掛けられたのだ。

屈み切れずに、鉄パイプが即頭部を直撃するコースに留められてしまった。


(…そうか、《重力子(グラビティ)》魔法か!)


とっさに右腕にシールドを作ってガードする。上手く勢いを流せなかったために、骸骨キングの人間離れした打撃力がそのまま冬夜の右腕をきしませる。

よろけてさらに無防備をさらけ出した冬夜であったが、さすがに鉄パイプをまともに弾き返された骸骨キングもまた苦い顔をして身体を泳がせていた。


(なるほど、こいつの術技は《重力系魔法》がメインか……《重力子(グラビティ)》でかく乱して強引に『隙』を作らせて、そこにリーチの長い頑丈な鉄パイプで痛撃を与える……持ち前のクソ力っていう『物理』を有効活用する対人戦にはうまいコンビネーションだな)


おまけに一撃で逆転の可能性のある《電気系魔法》もゴム手袋の絶縁で対処済み。ガチのタイマン勝負で培われた、まさに王道と言っていい魔法の使い方なのかもしれない。むろん、瞬時に《重力子(グラビティ)》を使いこなすだけの集中力と一定以上の《思惟力(インテンション)》の強さが必須となるだろうけれども。

修羅の国と化した外国のストリートファイトはこれができて当たり前なんだろうと思う。日本の平和ボケした術者が外国に行ったら、このハメ技でストリートチルドレン相手に一発退場ということになりそうだ。

修羅の国ハンパないな。


「フゥゥゥムッ」


ハンマー投げの選手みたいな呼吸法も、打撃力をアップさせるのか。その一瞬だけ骸骨キングがパンプアップしたように見える。カグファ王女たちに出会う以前のモブ夫であったら、防御も何もなく瞬殺でミンチにされていただろう。


(《思惟力(インテンション)》27って……ぼくのほうがずっと高いんだよね?! めちゃくちゃ強いんだけど!)


しかもけっして力任せなどではなく、不用意に相手を寄せ付けない細かい牽制も織り交ぜられて、《重力系魔法》と合わせて攻防のバランスがしっかりと作り上げられている。

徒手しかない冬夜はともかく一発逆転の可能性のある《ショックガン魔法》での一手を狙っているのだが、近づくチャンスを与えてくれない。足場が砂利で滑るのも彼の優れた瞬発力を台無しにしていた。


(慌てず戦略を立てろ……こいつのハメ技が《重力系魔法》を軸に成り立ってるのは分かったんだ。それならばその《重力系魔法》の発動を妨害すれば攻防のバランスが一気に崩れるはず…)


一方的に押されているのだけれども、いちおうおのれの防御が通用してしのぎ続けられている事実が、冬夜に冷静さを取り戻させる。

彼の高位把握野(ハイクルーフ)が嬉々として算段を繰り返す。

相手の《重力系魔法》が単純に《重力子(グラビティ)》を操ることで、念力(サイコキネシス)的な運動エネルギー運用を行っているのだとしたら、それをこっちの《思惟力(インテンション)》でジャミングするのも手のひとつ。

思惟力(インテンション)》の総量で数倍上回っているのだから、相手の捕まえている《重力子(グラビティ)》の支配権を強引に奪うことも可能だと思う。

そのとき骸骨キングから放たれた《重力系魔法》……ここでは《体術阻害魔法》としとこう……を試しにキャンセルさせてみる。むろん相手にそのことがばれないように、能動的にこちらからよろめいてみせる。

大げさによろめいてみせたら、ここぞとばかりに強打を打ち込んできた。精霊子を視覚化できない悲しさで、冬夜の欺瞞にはまったく気がついていないようだ。


(…よし、これならいつでも罠に嵌められる)


手法のひとつを確保しつつ、それでも冬夜の試行錯誤は終らない。好奇心がとどまるところを知らない。


(《重力子(グラビティ)》の支配キャンセルでもいいけれど、これはどうかな?)


さきほどヘラツィーダから指摘された、地面の砂利を用いた散弾を試してみる。よろめく振りをしながら蹴り上げたいくつかを、骸骨キングの顔めがけて弾き飛ばす。

こいつの《体術阻害魔法》は攻防一体であり、相手を押して強引に隙を作ることもあれば、不意の攻撃を受け流すことにも使われる。ならばその攻撃が、一度に複数行われたらどうなるのか。

目標を顔に限定したとはいえ、その全体を守るとしたら冬夜の《シールド》のような面の防御が必要である。しかし自分で言うのもなんだけれども、この意味論的《主観魔法》は《思惟力(インテンション)》を直接燃料にするだけにかなり燃費が悪い。《思惟力(インテンション)》140という魔改造があって初めて可能な術技なのだと推測している。スカジャンリーゼントの鉄拳はたぶん拳の先に限定的なシールドを無意識に作ることで、本人の自覚なく成り立っていたのだと思う。

案の定、骸骨キングは飛礫をリアルな防御……ボクシングのスウェーのような顔逸らしでかわそうとした。そして防ぎきれない小石に、個別に《重力子(グラビティ)》の光がぶつけられていく。魔法を制御する《思惟力(インテンション)》は人の意志力そのものなので、咄嗟のことでも特段狙いを定めることもなく飛来する小石を的確に捕まえられるようだ。

なるほど。これならば飛礫の数をどんと増やせば、一気に防御を飽和させられるな。

これで手法はふたつ目。

そして三つ目は…。


「《体術阻害魔法》をぼく自身が真似する、と」


こうなってくると、各個人が素養として持っている《思惟力(インテンション)》の量がある意味魔法戦闘力を決定付けてしまうことが分かってくる。

僅差なら分からなくても、それが圧差ならば、場の精霊子の支配権を確立できる。より性能の高い戦闘機で『制空権』を確保するようなものに近い。


「…むぅぅっ!」


小石を避けてたたらを踏んだ骸骨キングを、《体術阻害魔法》で制圧する。

何も全身を固める必要はない。すべての運動の起点になる足元をすくうだけでいい。どんな強い格闘家だって、踏み込むときにつま先を上げられたら初動さえ許されない。極端には親指を浮かせてやるだけで十分である。

動くことのできなくなった骸骨キングを見て、冬夜はビン底メガネをゆっくりと整えつつ歩き出す。捧げた右手には明らかに危険なレベルの《ショックガン魔法》が発動する。

後ろに倒れそうになるのをこらえつつ、それでも鉄パイプを振り回して抵抗しようとする骸骨キングであったが、その動きさえも《体術阻害魔法》で妨害する。振り下ろした体勢のところで上から《重力子(グラビティ)》で押さえつける。体感で重力が三倍くらいに感じたことだろう。

動きが鈍ったその鉄パイプを踏んづける。冬夜の体重がかかったことで、もうその鉄パイプが自由を得ることはなくなった。


「…もうぼくのほうが『強い』ことは分かったと思うけど、隊長の思惑を予想するに、ここは上下関係をはっきりさせとくほうがいいと思うから……ごめんねー」

「ヒッ、Прекрати!!」

「そっちも殺しにきてたじゃんか。公平にいこうよ」


バツンッ!

極めつけに強烈な一撃を食らって、骸骨キングの巨体が沈んだ。

ふたりの決闘を呆然と眺めていた『七つ髑髏(セブンスカル)』の幹部二人以下の面々が、冬夜の視線を受けて大げさにびくついた。

ヘラツィーダの論評はまさに脳筋の鏡だった。


「まあ順当だな」


『七つ髑髏(セブンスカル)』がルプルン家に吸収された瞬間だった。




ルプルン家の勢力が拡大しました。

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