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 ss 幼馴染 中河原砂姫

うわ。

急に反応がたくさん(*^∀^*)

モチベ上がってきました




かつてこれほど人生の勝ち組であれたことはあっただろうか。

断言してもいい。いま自分は世の中で言ういわゆる『リア充』であるに違いなかった。


「砂姫姉」


輝くような美少年がはにかんだように笑いかける。(※画像処理によりメガネ除去済み)


「砂姫姉ったら」


わき腹をつついて上目遣いする絶世の男の娘。(※画像処理によりメガネ除去済み)


「砂姫姉、大好きだよ」


見上げてくる吸い込まれそうなほど澄んだ、黒水晶のような潤んだ瞳。彼女の制服のすそを掴んで伸びをするように顔を近づけてくる小悪魔のように愛らしい幼馴染。(※画像処理によりメガネ除去済み)

そのハグしたら折れそうなぐらいに細い腰を掻き抱いて、わたしは……わたしはついに…。

…ハッ!

いかんいかん、思わず自分の立ち位置を『イメキュン』の冷徹執事に置き換えてCP(カップリング)させてしまうところだった。そこで二次イケメンに座を譲ってどうするのよっ。掴むのよっ! あんたはその手で掴むのっ!

リア充はそういう時いちいち躊躇しないのっ!

わたしはショタだっていけるクチなのブレるな欲求にまっすぐ向き合うのよ中河原砂姫ッ!

これは南米で最初に金を発見した山師(ガリンペイロ)の幸運と一緒なの。限定商品の行列で整理券1番を確保した先駆者(パイオニア)の冒されざる優先権。

幼馴染といっても隣同士は3年前からなんだけど……ご両親をなくして消沈していた彼の遊び相手をこなしてきた(※親命令)歴史的経緯からしてすでにわたしたちは天丼にも等しき運命のカップルなの。神様がようやく仕事してくれたの。勢い余って腐りかけてしまっていたけれども、神様は何とか間に合ってくれたの。いい仕事だったわ、神様。

手で開いた文庫本……『冷徹執事とぼくシリーズ』の世界になかなか意識が入っていかない。目が字面をなぞるだけで滑っていく。


「砂姫姉」

「…ッ!」


声がして、思わずビクッとしてしまった。

待っていたお姫様……もとい、幼馴染の登場だった。

ちらりと道の向かいにある時計屋のショーウィンドに飾ってある振り子時計で時間を確認する。午前8時前。いつもどおりの時間である。

やや気後れしつつもひとつ年下の幼馴染を見下ろして、そこで朝日を映してきらりと輝く鉄壁のビン底メガネを目に止める。顔面の約半分を覆い隠しているそのビン底メガネの有能さにほとほと感心してしまう。どれだけ愛くるしい整った顔であっても、顔の上半分を隠されてはその威力も半減以下である。

…が、しかし。その見えている顔の下半分だけでも、よくよく見れば恐ろしく精妙なバランスで鼻と口が配置されているのが分かる。筋は通っているのにあまり目立たない鼻と、ぷっくりと柔らかそうに色付いた薄桃色の形のよい唇。そして染みひとつニキビ跡ひとつないぷにぷにした頬とうなじ。メガネに覆いかぶさるほどに長い黒髪は、若干野暮ったい雰囲気があるものの、その髪質はジェラってしまうほどにつやつやで、キューティクルが輝きまくっている。


「…砂姫姉?」


再度呼ばれて、ようやく意識が現世に戻ってくる。

このダイヤの特大原石のような天使の愛くるしさが世間に知られてしまったら、この子は良かれ悪しかれ魅力的な商品となって空恐ろしいほどの奪い合いになることだろう。《グレートリセット》でテレビ業界が即死させられて、いまはかつてほど芸能界の魔の手が少年少女たちを誘惑で絡め取ることはなくなっているものの、芸能イコール舞台娯楽という本来的な姿に回帰しつつある現在の芸能界は、復権したフィルム映画に芝居演劇と、それなりに『映りのいい』美男美女を必要としている。

芸能方面に行くのならまだいい……もしもまかり間違って裏組織関係に拉致られた日にはどんな末路が待っているか。衆道の皆さんの熱い薫陶を受けてくんずほぐれつ大人の階段を上っていくさまを想像して……じゅるり。…く、くそっ! なんておいしいシチュだこと!

ふたたび妄想世界に羽ばたきそうになっていたその瞬間、脇腹からイヤンな電流が走った!


「砂姫姉ッ! 行くよッ」


幼馴染が容赦なく敏感ポイントを指で攻めてきた。思わず「ひゃぁんっ!」とか恥ずかしい声を出してしまった。あの白魚のように白く細い指で突かれたのかと思うと普段とは違う気持ちもこみ上げてくる。

し、幸せかも。

しかも手を掴んで引っ張ってくれている。指が絡んだのでぎゅっと握り返した。脳内からあふれ出す麻薬っぽい多幸感。前を歩く年下の幼馴染の、見慣れた小さな背中が、今日はやたらと頼もしく見える。昨日見た光景が夢幻でないのなら、その頼もしさはけっして気の迷いではなかった。


(…あんな小さな身体で、公園の不良軍団をのしちゃったなんて)


昨日、柄にもなく舞い上がっていたわたしは、妙なスイッチが入ってしまっていた。生物としての本能であったのか、それともリア充の階段を一足飛びに昇ろうとした焦りであったのか、幼馴染相手に絶対に『キめて』やろうと思っていたのだ。

いつになく舞い上がったまま幼馴染を連れまわし、空がだんだんと暮れていくのを慎重に測っていた。そうして見通しのあまり利かない暗さが満ちた頃合に、時間的にまだ安全だと思っていた公園コースを取った。

まああとの展開は成り行き次第、勢い任せのところはあったのだけれども、何事もなければあるいはオネショタノリで『お姉さん』なエッチい手管で篭絡にかかったことだろう。座るベンチもだいたい決めていた。

だがしかし。

やはり馴れないことはするものではなかった。公園が不良どものたまり場になっているという噂は聞いていたものの、まさかこんな早い時間から危険ゾーンになっていたなんて知らなかった。あっという間に取り囲まれて、ようやくわたしは正気に返った。

当然、やばいなと思った。

やつらに連れ込まれてひどい目にあった子の話とかも小耳に挟んでいた。それがまさか自身の身に起こるなんて想像の埒外だった。『キめる』つもりが『キめられる』とか、なんの冗談かしら。まったく笑えないんだけど。

腐ったりとはいえまだ陵辱モノに身を震わすほど倒錯してはいない。どうにかして……最悪は幼馴染だけでも逃がさなければ、と思う。乱暴に殴られてあの顔にひどい傷でも負わされたら、泣ける。…それどころか何かの拍子に眼鏡が取れて、あの子の秘密がやつらの目に止まってしまったらどうなるか。


(男同士の『そっち』の一目ぼれ即発情って、ありうるのかしら…)


にらみ合いのさなかにそんな想像をしていた自分が呪わしい。それを少しだけ見てみたいとか思ってしまった自分を懇々と説諭してやりたい。

そうこうするうちにじりっと不良たちが下卑た笑いを浮かべながら迫ってきて、手に造った《ショックガン魔法》を誰にぶつけようかと算段していたときに、それは突然起こった。

背後で起こったいきなりの爆発……その瞬間にガツンと後頭部に何かか当たって、目から火花が迸った。頭を抱えて反射的にしゃがみ込んでしまったのだけれども、よく考えれば教われる寸前で無防備をさらしてしまったのだ。これほどまずいことはなかった。

周囲でも不良たちの悲鳴が聞こえていたのは聞いていた。

ズキンズキンと痛む後頭部を押さえて顔を上げると、迫っていた不良たちもいろいろと被害があったのかしゃがんだり這い蹲ったりして呻いている。


「なんなのよもう……頭になんか当たった」


若干安心しつつ、守るべき幼馴染の安全を確認しようとして顔を上げたら、眼鏡越しにも分かるぐらいにこっちをぎょっとして見つめていた。


「………」

「どうしたの、冬夜?」


そうしてそのときになって、自分の手に伝ってくるあったかいドロドロとしたものが自分の血であることに気付いた。暗くなかったら……血の『赤色』が見えていたら、即行で気を失った自信がある。

それでも急に身体の力が萎え出したわたしを抱きとめて、幼馴染は励ましながら傷に薬を塗って血を止めてくれた。

血が止まったよ、と言われて、ひどく安心した。そのまま抱きしめられたらあっさりと身を預けてしまいたくなったろう。だけれども状況は再び切迫の度合いを増していた。

不良たちも混乱から立ち直って、こちらを囲んでいた。

すっかりと腑抜けになってしまったわたしにはもう立ち上がる気力もわかなかった。そして頼りにならないお姉さんを植え込みに押し付けて、かばうように立った年下の幼馴染の背中……そのはかないほどに細いその背中に、わたしは揺れるまなざしを向けていた。

もう終わった。このあとたぶんいろいろとひどいことをされてしまうのだろう、と気持ちの準備をしてしまっていた。

そして目の前の幼馴染が……けっして成績優秀とも実技が得意とも、まるで聞いたことがなかった幼馴染が、右手に見事な《ショックガン魔法》を発動、間を空けずにさらに反対の左手にも同じ魔法を発動した。

思わず目を疑った。

しかし目を擦っても、幼馴染の術技同時発動の事実は覆らなかった。

そうして襲い掛かってきたふたりを《ショックガン魔法》で同時に沈め、それに続くように殺到した残りの三人を……まるで冷徹執事が敵を軽やかにいなすように……体操選手のあん馬のようにパンチする相手の腕に手をかけて、くるりと身をひねりながら空中を飛んで避けてしまったあり得ない光景。

時代劇の殺陣のように、悪そうな不良3人がゆっくりと倒れた向こう側で、何事もないように立っていた幼馴染。七瀬冬夜。

該当の光で逆光になったその姿は、もうわたしの胸をキュンキュンとときめかせて。

わたしが運命の白馬の王子様を見つけた瞬間だった。




「砂姫姉……鼻血鼻血」


ポケットティッシュを渡してくれる白馬の王子様の手を、わたしはがっちりと掴んでぎゅっとした。


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