Sec.1-6「No.5,Landing's Mirror"s" -The Latter-」
長らくお待たせいたしました。第6話です。
「分断したー」
「・・・行きますか」
みーツケた。
どうシテジぶんが
とジコめらレタノ?
・・・コロしテヤる
こコニホウリこんだ、
あのオンナを!!!
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「ぐえっ!」
頭に鈍い痛みが響き、意識が戻った。
恥ずかしいだみ声が出てしまいさっと口元を抑える。
左半身に冷たい感触を覚え、ああそっか、あたし引きずりこまれたんだっけ。
よいしょ、と体を起こす。
「・・・はっ、?」
昨日と今を合わせて一生分の驚きを使ったと思う。
明らかにさっきの踊り場じゃないところだが、びっくり仰天まではしなかった。
もういろいろと慣れてしまったかも、しれない。
ひとまず状況を確認。
・ジャスト12時になったところで、合わせ鏡が現れた。
・同時にあたしは、後ろから何者かに首根っこをつかまれた。
・そのまま引っ張ってかれるところでたぶん意識飛ばす。
・起きたら変なとこにいた←いまここ
で、今いるのは、どうやら廊下のような場所。
ただ、どこもかしこも見渡す限りの、鏡、かがみ、カガミ。
薄暗い空間に、天井からは豪華で仄明るいシャンデリア。
なんか似てる?と思ったら、あれだ、ヴェルサイユ宮殿の鏡の間。
でもあれとここが違うのが、床も天井も全部鏡。
シャンデリアも、よく見るときらきらしたのは鏡。
なにより廊下の両端が全く見えず、延々と鏡。
そんな廊下のど真ん中に気づいたらゴロンしてた、か。
・・・それにしても、周り全部の鏡があたしを映すから、これはこれで怖い。
ゴンゴンゴン!!
ビビッて肩が跳ね上がった・・・。
「--!!-----!!?」
一番近い鏡に、あたしではなく五十嵐さんたちが映って、なにか叫びながらたたいている。
何を言ってるかはここまで聞こえない。
でも、一緒にいた五十嵐さんが向こうにいるなら、ここは-さっきの鏡の中なんだろう。
しかし・・・そうならどうやって出ればいいんだ・・・。
《あ、意外と起きるの早かったかー》
「誰!?」
突然女子の声。聞こえてくるのは見えない廊下の端から。
《この前の子はかなり遅かったのに。ま、やっと見つけたし、いいや!》
静まり返る中、ゆらり、と廊下の闇から白い人影。
《よーこそ、合わせ鏡の世界へ~♪》
・・・かなり背の低い女子だ。
港名坂学園高校のブレザーに、肩にかかるくらいの髪をサイドへひとつにまとめて、黒い縁のメガネ。
なんか五十嵐さんみたいな優等生のイメージ。
しかし暗くてわかりにくいが、彼女もまた透けていた。
《えっへへ、名前は言っとくか。わたしは浅川蛍》
「浅川さん・・・あなたがあたしを、ここに?」
《うんそう》
「だったら、向こうに出してくれない?」
浅川さんは立ち止まり、こてん、と首をかしげ、すっ、とあたしを指さす、
「ぐっ!?」
・・・足が動かないっ・・・!
「は、なせ・・・!!」
足を上げたり振ったり、とにかく動かそうとするが、足の裏に瞬間接着剤をつけたみたいに全く動かない。
《はなさない。絶対、逃がさない》
浅川さんがあたしを指す指をすっと下に動かす。
「うわあ!!」
突然、足を引かれ倒れた。
幸い、頭を打たずに済んだが、思いっきり腰を打ってじんじん痛みが来る。
「い、一体なn・・・いっ!??」
いつの間にか浅川さんがあおむけになったあたしに馬乗りし、
《逃がすもノか》
その透けた両手があたしの首をつかんだ。
「何、ッ、れっ、ごほっ」
冷たい感覚が首に力をかけ始めていく!
両腕は浅川さんの足の下敷きで、動かせない・・・。
自分の長くて雑にとかした前髪の間から、浅川さん、いや、浅川蛍の白い顔が嗤う。
《オ前がワタしを殺したンダ!!今度はワタシがコロシてヤル!!》
嘘だ、違う、という言葉が出ず、・・・どんどん絞まっていく・・・・!
「あ、・・・が・・・・!」
視界が・・・黒くなりはじめ、その中、浅川蛍の、笑顔は、狂気に、あふれて、いる。
《殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスコロス・・・・》
た、だ、三、文字繰り、返す、彼女の、その・・・目、に、一切、の、光が、ともって、いな・・・い。
《オワリニシテヤルヨ・・・トウカ!!》
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「夏希さん!?ちょっと!!夏希さん!!」
うかつだった。まさか本当に引きずり込まれるとは思わなかった。
僕-五十嵐秋人がついてきてと言っておいて・・・このざまだ。
「アッキー!」
もう足音なんのはお構いなしに、香里さんと弘はこちらにかけ上ってくる。
僕も鏡を殴り叩いていたからお互い様だ。握ったこぶしが赤く、じんわり痛い。
「秋人」
「香里さん・・・夏希さんが・・・鏡に引きずり込まれた」
「うっ、そ」
「嘘じゃない。あの鏡から手が出てきて・・・」
あっという間に。
間違いなく、悪霊の仕業である。
しかも生きている人を引きずりこむとは、相当な強さだ。
もしかすると、いままで僕らが戦って送還してきた連中の、どれよりも強い悪霊かもしれない。
「・・・アッキー、《奴ら》が近づいてる」
「え」
突然、弘がさっき上ってきた階段の下をにらむ。
「ざっと・・・確実に10以上は”聴こえる”」
「マジか」
「・・・夏希さんを引きずりこんだ悪霊が呼んだか、あっちが俺らに気づいたか」
《可能性は五分五分だと思います。もうそんなに距離がありませんよ》
弘の霊能力とルチアさんには毎回助けられている。
彼は悪霊を「視る」ことはできないが(マンホールネットワークの案内人は視れる)、そいつらの声を「聴く」ことができ、だいたいの数を把握できるのだ。
ルチアさんは悪霊を「視れる」し「聴ける」し、僕らの中で唯一触ることもできる。
そして僕と香里さんは「視る」ことはできるが、「聴く」ことはできない。
でも僕ら2人(と一応ルチアさん)は、自力で悪霊を強制送還することができる。
「俺は相手ができねー。2人よっろしく」
弘はさっさと僕と香里さんの後ろに退散。
「無駄に体力あるくせに、こういう時使えないんだから~」
「しょーがないだろーが!」
「香里さん、そんな場合じゃない!!」
また弘と香里さんが口論しかけたので注意しておく。
「あ、やばい来る来る!」
香里さんが指さす先に、黒い靄がかった大量の生徒、もとい元生徒の悪霊。
正直言うと、僕が弘の発言をもとに予想していたものよりかなり多い。
危険な気配は鏡のものより薄いが、たくさん来られると数の圧力でやられてしまう。
「よーし」
「って、何してんですか!」
僕と香里さんが迎撃態勢のさなか、弘が持ってたのは、紙飛行機。
「そんなことしてる場合j、あ」
「はい残念」
「ちょっとこら、くっ・・・ちくしょ!」
取り上げようとするも、僕の手の届かない高さにあげられる。
これに限ったことじゃないけど、やっぱり弘より30センチ以上小さい自分の身長を恨む・・・。
「だーいじょーぶ大丈夫、即席の武器だって」
そういい、弘は妙に真剣な顔で紙飛行機を構え、
「うおらあ!!」
・・・暴投。
「・・・」
「・・・」
《・・・》
「・・・ハァ」
本人含む、僕たち3+1人沈黙の中、すごい速さで紙飛行機は失速。
すぐに階段の中腹らへんに急降k《ギシャアアアアアアアアア!!!》
「え?」
迫っていた悪霊の先頭集団にジャスト墜落。
紙飛行機が触った悪霊数体が、黒い靄をほのかに残して苦痛の顔で”強制送還”されていく。
同時に紙飛行機も焦げたように真っ黒になり、最後は塵と消えた。
「おま、送還札か!」
「2人みたいに突っ込めないし?」
こいつ・・・つくづく考えがわからなくなる。
さっきの紙飛行機は、学校に入る前、香里さんが弘と夏希さんに配った「送還札」。
これを悪霊にさわりでもさせれば、文字通りいるべきところへ「強制的に」送り還すことができるスグレモノ。
ただし香里さん家でしか作れないうえ、作るのに時間がかかるので持ち出せるのは限りがある。
《アキト様!》
ルチアさんの声で悪霊がすぐそこまで来ていたのに気付く。
「香里さん、行こう」
「オーケイ」
僕と香里さんが悪霊の群れに突っ込んでいく。
「せえ~~の・・・・おらあッ!!」
香里さんご自慢の回し蹴りが、そいつらにきれいに決まる。
先頭付近の悪霊がまとう靄が一気に消し飛び、蹴られた悪霊は階段を転がり落ちていった。
しかし次から次へと別の悪霊が迫る。
「あ、何匹か抜けた!」
香里さんの攻撃から逃れ、踊り場に上がろうとする悪霊をロックオン。
「還りなさい!!」
そいつらに僕が普段絶対出さない大声で叫ぶ。
すると同じく靄が抜け、悪霊は倒れこむ。
同時に上から細かい紙切れが、僕らが攻撃した悪霊へ雪のように降ってくる。
《------!!!!!》
紙切れが触った悪霊は聞こえない断末魔をだし、”強制送還”されていく。
「うっ・・・あ・・・!」
《ヒロシ様、大丈夫ですか?》
「・・・っ、大丈夫だ、数は半分切ってる」
あ、弘にはこたえるか・・・。
「秋人、次!!」
っと、あっちに気を取られてはいけない。
再び息を吸う。
「とっとと・・・消えろッ!と!」
香里さんが「物理的に悪霊を攻撃して強制送還」し、
「去りなさい!!!」
僕が「声で悪霊を攻撃して強制送還」する。
《はいはい、さよなら》
ルチアさんがポルターガイスト現象の応用で、送還札を細かくした紙切れを降らして強制送還。
「い~よっとぉ!!」
たまに送還札紙飛行機(弘製)が目の前に墜落してくるが、ちゃんと送還してるので結果オーライ。
《・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!》
最後の一群が大口を開けて「送還されて逝く」のを確認し、
「あ゛あ~~~」
「あいたたた、足吊りそう」
「俺、あったまイテぇ・・・」
《久しぶりにこんなに相手して、精神的にきましたわ・・・》
「それなぁ・・・」
戦闘に集中して、いつの間にか下の階に降りていたので、踊り場に戻る。
で、すぐ僕たちは座り込む。
「あ゛ぁ~~~、明日声枯れそう」
思った以上に数が多くて、いつもより叫んだのでのどが痛い。
「俺死にそう・・・つうか、マジ死ぬわコレ・・・・・」
弘に至っては寝っ転がる始末。まあ、連中の断末魔が”聴こえる”から相当辛かったはずだ。
「う~~~・・・・・・ん!?」
「おわっ!」
突然弘が跳ね起きたのでびっくりした。
「突然なんだよ!!びびったじゃねーか、この野、郎っ!」
香里さんもびっくりしたようで、弘に技をかけ―
「うおわぁぁ!??」
さすがに背負い投げはいかん!!
「いやいやいやダメです香里さん!!!」
《か、カオリ様!!》
僕とルチアさんが止めようと2人に近づく。
「・・・リバースしそう」
「ぎゃああああああああそれはやめろおおお!!」
香里さんが絶叫して弘を降ろす。
「つーか弘、さっきどして突然起きたのよ?」
「あー」
弘が何かを指さそうと手を上げる、
イ、チス・・ヒ、マ、エキ、ウ、ハ・・・ハワウ・・・ン
ピシッ。
「??!」
僕も含め全員の動きが止まり、あの鏡に意識が向く。
幻の方に、ヒビが入っていた。
「え?」
しかもさっき、
「なんか変な声も・・・してた?」
《ええ》
思ったことを香里さんが言ってくれ、ルチアさんが肯定した。
「うん。それがさっき俺に聞こえた」
・・・・チツク・・・レ・・・ラ
ピシッ、
ピキピキピキ、
声がヒビをどんどん大きくしていく。
あんなにたたいて割れなかったのに。
もしかしたら僕のたたく力が弱かったのかもしれないが、幻といえど今はちゃんと実体をもつ鏡、
声だけでヒビが入っていくのはまずできないこと。
だから、僕たちはただ茫然としている。しているうちに、
ヌア、ハ、フナ、レ
ガッシャ――――ン!!!!!!
鏡が、割れた。
舞い散る銀のかけら、月明かりに光るそれらに思わず顔を覆う。
ガララ、ガチャッ、
僕らが全員突っ立っている中、
かしゃん。
・・・かけらを踏む音がした。
「っ、はあ、はあ、はあ」
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ああ・・・・・・・・。
父さん・・・・ハル兄・・・・・・。
ぬけだしたまま、しぬわ、ゆるして
―。
「え?」
意識が沈んでいくなか、空耳にしてはたちが悪すぎる。
―なつき。
姿は見えない。ただ、声だけだった。
でも、この声を聞かなくなって10年たとうとしていた。
―、夏希。
「・・・か、あさん」