Sec.1-5「No.5,Landing's Mirror"s" -The First-」
「深夜は発見と恐怖の塊」
大変お待たせいたしました。第五話です。これと六話で前後編となっております。
彼女の本業と「ネットワーク」。
「今回つかんだ情報は”東階段の合わせ鏡”について」
「合わせ鏡?」
「2枚の鏡を向かい合せにすることですが・・・」
五十嵐さんの発表に全員驚いた。もちろんあたしも、声は出していないが唾を飲み込んだ。
そんな一悶着のあと、とりあえず神社を下る階段に固まって腰掛け、「委員会」がスタート。
いつもはこの神社の東屋でやるらしいが、さっきの戦闘(?)で東さんが半壊させていたので、五十嵐さんが目頭を押さえていた。
(あのあと東さんは小言マシンガンを浴びていた)
「それが学園で?」
「はい、港名坂学園高校では5番目にあたる七不思議です」
五十嵐さんはくいっとメガネを押し上げる。
「もっとも、これに関しましては都市伝説でも有名なもののひとつですが」
「はぁ」
「たっしか、深夜の0時か2時にのぞくと自分の未来の姿だの死後の姿だのが映るやつ?」
道谷内さんがあぐらをかいて首をかしげる。
「それが一般的なものですね。まあ、この学園のものはちょっと違いますが。
それで榊原さん、東側の階段の3階から4階に上がる間の踊り場の壁に、鏡がついているのは知ってますか?」
「・・・知ってます」
「凹」の字型の校舎の出っ張った両方、つまりちゃんと中学側と高校側に階段が分かれてついている。
東階段とは字の通り、高校側=あたしたちがいつも使う方、の階段のことになる。
去年の昼休みは人除けのために屋上へ毎回行っていたから、確かに横切っていた覚えがある。
あ、でも待って。
「あそこ、鏡いっこしかない」
上るとき反時計回りで、壁は常に左側で・・・記憶ではそっち側にしかついてなかった・・・はず。
「そのとおりですが、深夜0時にそこに行くと、・・・反対側にもうひとつあるのです」
「え」
「ルチアさんが見たのでほぼ確実でしょう」
《アキト様たちが2年生にあがる前の春休みよ。なんとなく学校のほうに行ってみたのよね。ほら私こんなだから》
まあたしかに普通の人には視えないし、あっちの存在だから「すり抜け」ということができてしまうか。
《そして、話に出てきたところを通り過ぎようとしたら、ちょうど目の前に鏡がぼや~っと出現しまして・・・お恥ずかしながら逃げてきてしまいました》
おいおい。
「本題はここからです。どうやら、その時の鏡をのぞき込んで1人行方不明者が出たようです」
「えっ」
空気が固まった。
「調査したところ・・・」
五十嵐さんがメモをパラパラめくる。
「一番有力なのは、今年僕と同じ2年D組になる、歌矢野紗代さんという女子生徒です。
彼女ですが、先月の終業式から姿がないそうで、すでに警察に届けが出ているそうです」
「・・・それ、オオゴトになっているんじゃ」
東さんもこれには笑顔が消えている。
「ええ、ですからあなた方が遊んでいるときに僕とルチアさんで調べていたんですよ・・・」
五十嵐さんは東さんと道谷内さんを交互に見て大きくため息をつく。
「・・・最後に歌矢野さんが目撃されたのが終業式の深夜。学校に向かっていたそうです」
なんでだろう?
「・・・弘」
「アッキー?」
五十嵐さんが初めて道谷内さんを名前で?
「最近何か《聴こえ》ました?」
は?
「ああ~~、っ!そういや、その頃ぐらいに学校の方面がざわついてた!あんまりよくない感じがしたのは覚えている」
「なるほど」
五十嵐さんは探偵のように顎に手をあてさすり、なんかぶつぶつ言ってる。
「・・・さっきから一体「よし、今夜決行!学校の裏門に23時半で!解明まで持ちこむ!!」
「「わかった!」」
え、えええ~~~??
「夏希さんもよろしく。ルチアさんが迎えに行くから、23時くらいには家の人の居ないとこにいてくれないかな」
「ええと「僕がこの目で夏希さんの持ってる能力を確かめたい。夏希さんのこれからのことにも関わってくるかもしれないから」
五十嵐さんが上目づかいで必死の表情(なんかおかしい感じがするが)。
必死なのと、「これからに関わる」・・・。
今までの変なこともあったし、・・・ここまで聞いたなら最後まで巻き込まれてやる!
もう、この際、人嫌いとか言いたいことアレコレは我慢。
「・・・行きます」
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家についたころにはもう昼をとっくに過ぎて夕焼け気味の空だった。かなり長いこと神社にいたか。
リビングの机にはすっかり冷めた親子丼。
父さんは仕事だし、ハル兄が作ってくれたに違いないが、当の本人はまた名古屋へ遊びに行ってるんだろう。靴なかったし。
それはそうと、今日1日ずっと普通じゃないことの連続で、体力的にも精神的にも疲れた。
風呂沸かすか・・・。
親子丼を夕飯代わりにして、とりあえず22時半に自分の部屋へ。
さすがに父さんもハル兄も帰ってきているので、明日早いからもう寝る、と言っておいた。
こうすれば部屋に来ないし。そして鍵もかけとく。
パジャマを脱いでベッドに押し込んでおき、学校の制服に着替える。
・・・夜に着るとか初めてだから、なんだろう、ものすごい違和感。
あとは小さいリュックを用意し、下から持ってきた水筒とかおやつとかを詰めて肩にかける。
準備はこんなもんか。あとは水無さんが来るらしいが・・・。
ベッドに座り、壁掛け時計とにらめっこする。
静かな部屋に、秒針の刻む音だけが響く。
22時55分、あと5分・・・。
・・・眠い。いつもはもう寝るくらいだから・・・。
ああ・・・まぶたが・・・・いやいや、起きていないと・・・。
・・・・・。
・・・。
バサッ!
「!?」
顔になにかが被さり、頭をはね起こした。
・・・これは、私服?
あれ、このTシャツはクローゼットにしまってたはず?
ガタッ、ガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!
「ちょっ・・・・!!!??」
今度こそ完全に起きた。
座っているベッド、本棚、三段ラック、机、いす、とにかく、あたしの部屋の家具ががが、
勝手にガタガタ動いている!!???
《うっふふ、あっははははははははっ!!!!ははははははHAHAHAHAHahah》
聞いたことがある声が・・・高笑い・・・。
あんまりにも突然で叫び声も出ず、体も動かない。
いや、怖いんだけど、怖いんだけ、ど、もうそれを通り越してて。
「・・・・・水無さん・・・」
《あら、やっと気づきました?》
部屋のど真ん中、高笑いが止み、水無さんは何事もなかったように振り向いた。
それとともに、家具のガタガタ音も止む。
「・・・迎えに来るってこれ?」
顔にかかったシャツを後ろにほうかる。
《ナツキ様が寝ていらしたので。もう、集合の15分前なのでいつもの手段を使いました》
「はい?」
いつもの手段ってこれ??
《私たちクイックシルバーは、いわゆるポルターガイスト現象の一つなのです》
「あー・・・」
-夜に勝手に家具とかが動く現象、ポルターガイスト。
それくらいは知ってる。
《ただ違うのが、クイックシルバーのほうが悪戯っぽいのと、高笑いをすることですか。・・・もちろん普通の方には聞こえませんが》
「そ、そうなんだ」
《あとは、》
水無さんの透けた手にはどこからか口紅。
そのままあたしの隣まで来て、
《これで・・・オッケーですわ。さあ、ナツキ様、行きましょう?》
おい待ちなさい。
「・・・落書きしないでください」
すぐ後ろの壁に、紅い大きな「Q」の文字。
《これこそが、クイックシルバーの現れた証拠ですのよ?》
変わらぬ笑顔の水無さんが、月明かりに照らされて少しだけ怖かった。
「んげ、あと5分しかない」
靴下と予備用で部屋にあったローファーをはき、2階の窓から何も植えていない花壇へダイブ。
砂砂になったが、急いで退散し、夜の細い道路を走る(水無さんは後ろからふよふよついてきている)。
・・・チャリがあっちにあるから走る羽目になった・・・。
いや、絶対これ間に合わない!!
チャリで行ってもそこそこかかるのに、走り(しかもずっと走るのは無理)となると・・・。
《ナツキ様、こっちへ!》
水無さんに突然腕をひかれる。
い、意外と力強い。
今来た道を少し戻り、連れてこられたのは、
「・・・?」
足元にマンホールのふたがある以外はただ道のど真ん中。
《これを使えば早かった・・・あの~、夜分遅くすみません》
水無さんは透けた手でふたをぺちぺちたたく。
《おお、ルチアちゃんじゃないか》
「!!!???」
ボタン押して開くタイプの、スポーツとかで使う水筒のようにぱこん、とふたが開いた!?
中から60代くらいの(どこぞの担任とは大違いの)白髪で優しそうな細目の男性が出てきた。
なぜか執事さんが着そうな燕尾服姿。まあ、こんなとこから登場する時点で「あっち」の人だろうけど、
「えええ、ちょっと、これは・・・??」
《おや、そこのお嬢さんは初めてかね》
《ええ、彼女はいろいろありまして・・・。とりあえず千崎さま、港名坂学園高校の近くまでお願いいたします。急ぎなので》
《よしよし、急ぎなら詳しいことはまた今度聞こう。お嬢さん、お名前だけ教えてくれないかい?》
・・・自分の名前言うのもう何回目だろ。
《ナツキ様、危険はないので大丈夫ですよ》
「わかった。あたしは、榊原、夏希です」
《夏希ちゃんだね。ようこそ、”マンホールネットワーク”へ。今接続したから入っていきなさい》
「マンホール・・・ネットワーク?」
《詳しくはついてから話しますわ。さあ、早く》
水無さんに押され、って、落ちr「ちょ、わあああああああああ!!!???」
落下の感覚と、よくわからないグニャグニャした感覚が10秒くらい続き、
《ナツキ様、着きましたよ》
「痛った!!」
尻に鈍い痛みを感じた。
無意識にギュッとつむっていた目を開ける。
「・・・はあああ!??」
目の前に「凹」型の、夜でも目立つ校舎。
その正門前にあるマンホールのふたの上にあたしは座っていた。
「ワープ・・・した??」
《はい、霊能力者でかつ周りに非能力者がいなければ使えますよ、さ、裏門へ!》
水無さんに急かされ腰を上げる。
・・・もう頭がパンクしそうです。
「あ、いた」
遠目でも東さんがこっちに大きく両手を振っているのがわかる。
ちょっと小走りに切り替え、裏門の前まで向かった。
「つ、着きました・・・」
「おっつ~。秋人ーそろったよー」
「あ、来ましたか。ルチアさんありがとうございます」
《いえいえ、マンホールネットワークを教えましたので》
「了解です。香里さん、アレ持ってきました?」
「おー、アレね。じゃ、夏希さんこれどーぞ、持ってって」
「?」
東さんに手渡されたのは-千円札くらいの大きさの紙数枚と、・・・ブローチ?
暗くてよく分からないが、触った感じからすると剣型のようだ。
「お札は遭遇した時用の保険。で、そのブローチはアッキーに頼まれたから持っといて。あと弘、これ」
「おーサンクス」
道谷内さんもお札?を何枚かもらっていた。
「弘、こういう時は唯一の取り柄が半減だからねー。あとでアッキーにお礼言っときなよー」
「おい仕方ねーだろ、そーゆー能力なんだから」
「あのn「あー、はいはい。茶番は置いといてほら行くから」
また東さんと道谷内さんがぎゃあぎゃあする前に五十嵐さんが止めに入る。
「っつってもアッキー、どこから入るんだ」
しっかり閉ざされた裏門を前に、道谷内さんと同じことを思った。
学校、しかも私立となるとセキュリティがかなり固いんじゃ?
「・・・もう少し学校を見たほうがいいですよ」
無言で五十嵐さんが指さした先には・・・暗くて見にくいが小さなマンホールのふた。
「そこまで考えてねえのか、とは言わせませんから」
「のおお~~、暗いぜ~!」
「当たり前だろーが」
《深夜ですもの》
「約2名黙ろうか」
「「サーセン」」
再びマンホールを使って高校校舎の昇降口、なんとあたしたちのクラスの下駄箱の真ん前についた。
しかし出口のマンホールはざら板の下にあったので、水無さん以外は頭に痛い思いをしている。
とりあえず1列の縦並びになり、先頭から五十嵐さん、水無さん、あたし、東さん、道谷内さんの順でそろそろと階段を上っていく。
五十嵐さんと東さんが照らす懐中電灯を頼りに、何があってもパニクらないよう、周りには細心の注意を払って。
暗い校舎は想像以上に不気味。あたしたちのわずかな足音以外は静まり返っている。
時折「向こう側が見えている」生徒が階段を駆け下りたり、急いで登ったりしていったが、視なかったことにしておく。
・・・でも、2階から3階の間の踊り場のところで、上から突然透けた女子生徒が降ってきたのは声を出しそうになった。
ひとまず3階に着き、いったん休憩。
警戒して相当ゆっくり行動したものだから、神経が疲れる。
(夏希さん)
すこしして、無声音で五十嵐さんがあたしに話してきた。
(時間確認してもらっていいですか?)
すぐに持ってきたスマホで確認。
(11時、57分です)
(よし、いいくらいか)
先の階段を見上げた先には、月明かりが反射した鏡。
(いい?まず僕と夏希さんが先行するから、5段くらい上ったら香里さんたち3人ついてきて。
ヤバい場合すぐ来て)
((((わかった))))
(じゃあ夏希さん、行こうか)
(はい)
五十嵐さんの後ろから一歩下がってついていく。
ほどなくして、問題の踊り場についた。
着いてすぐ左の壁には変わらず鏡がくっついている。
のぞいても、暗い中にかすかにあたしと五十嵐さんが映るだけ。
あたしたちの後ろの壁は白いまま何もない。
少ししてまたスマホをつける。
(あと5、4、3、2、1-)
スマホのデジタル時計の数字が全部0になる。
「!?」
悪寒がして後ろを振り返ると、
「あ・・・」
銀の何かがゆらゆらと形作って、
ちょうど向かい合うようにして、
その幻は現実となった。
合わせ、鏡。
「ぐっ!?」
突然後ろから襟首をつかまれ、っ息苦しい・・・!
ありえないくらいの速さで、そのまま後ろへ引っ張られる!
「夏希さん!?」
五十嵐さんの手があたしの腕をかすめ、
とぷん。
何かに突っ込まれる感覚、
そこで目の前が真っ暗になった。
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(あのこがにくい
このまえははずれ
こんどこそ
つかまえたかなぁ?