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「あれ、後藤君よね、後藤大助君」
それは実に気さくだがやはりその気さくさにどんなでかいクレバスよりも大きな溝を感じていた
それが普通であればあるほどその普通がいかに難しいか
「やあ、そういう君は宮崎 美羽君ではないか、久しぶり中学以来か」
「フフフ」それは彼女に実によく似合う大人な笑いであったが笑われていることすら気にならないほどテンパっていた。
「後藤君先生みたいね」それは果たして何ヶ月も剃らなかった髭のせいだろうか、それともやはり言い方のせいだろうな・・・
「君は何しに空港にいるんだい」僕は当たり障り無く
当たってほしくないとは思わないが、しかしできれば会話の芽よ出ろ
とか思いながら彼女に聞いた
すると彼女は少しほほえみを引き締めて
「仕事よ」と素っ気なく言ったがそれすらも何処か上品で
見ていることさえ辛くなっていく
さて次は何を言おうか、急いでいかないでくれなどと思いながら考えていたが
「美羽、ここにいたんだね」それはなれなれしく
彼女に声をかけてきた
して彼女越しにその物体なる人物を見ると
それは実にクールでハンサムで
青いスーツをビシッと決めて、それでいてどこまでもあか抜けた颯爽さを兼ね備えている
少なくともよく分からない原色のTシャツに短パンさらには
彼と違い隙一つない顔と違い
今の僕はひどい広野だった
更に更にが積み重なり池の鯉のようにパクパクとしていると
彼女が手短に紹介してくれ僕は
「あえーと、、ご後藤 大助です、、、あなたは」
などと何かは分からないが挙動と不審を植え付ける会話のキャッチボールを投げた。彼はそれを嫌な顔一つせずに
「こんにちは」と爽やかに夜なのに言い
「僕の名前は早川 卓彼女とは仕事仲間で
一応のパートナーです」
果たしてそれは、彼女というか連れというか妻というかそれ相応のワイフという意味かそれとも、チームのチームメイトぐらいの話なのか
そのあと彼らは颯爽と僕を残して、搭乗口に消えていった
唯一の救いと言えば、別れ際彼女の携帯番号とメールアドレスを紙に書いて渡してもらえたことと、遙か向こうでもう一度笑顔で手を振ってくれたことだろう、その時ばかりは普段なら誰であろうとやらない
「手を振る」
と言うこおいを満面の笑みを浮かべてやり遂げたのは
自分の七不思議に入れても良いほどの事件であった
女性って、その後来るであろう台風の予想図を僕はその時そっちのけで彼女の消えた搭乗口付近を惚けたように見つめていたせいで見逃していたのだが、その時確実に東京の空はどんよりとさっきまでの僕の心のようにくすみさらにはその迫り来る夜の暗闇が更にその色をひどく不吉に彩る
僕はそんなことは知らずにただ浮かれ惚けていた
今に思えばジャマイカの奥地に忘れさせていた記憶がここまで追ってきたような気がする
そんな不吉な十四日の金曜日の午後六時三十六分五十、、、、、