空は今日も青かった
屋上へ続く階段を駆け上がる。
夏休みで閑散とした校内には部活生とその顧問や、仕事を追われる教員しか存在しない。
屋外プールはと続く目の前の扉を押し開くと、生温い風が頬を撫でた。
屋上に設置されたプールに浮かぶそれを見つけ、私はプールサイドに立つ。
白地の半袖セーラーと膝が見えるか見えないかの位置にあるプリーツスカート、この学校の制服を身にまといプールに浮かぶ人物。
目を閉じて水面に浮かんでいる姿を他の人が見たら、悲鳴を上げて誰かを呼んでいることだろう。
「起きなさい、水萌」
プールサイドから声をかけると彼女はゆっくりと目を開いた。
そして直ぐに顔を顰める。
彼女か小さく何かを呟いたがここからでは聞き取れなかった。
パチャッと水飛沫を立てて彼女が足を上下させながら、こちらに泳いで来る。
勿論、空を見たまま。
眠そうに細められた目を見ながら私は職員室で聞いた事を話す。
部活をしていない私達が夏休みだというのに学校に来ていた理由、それが意見文の提出についてだ。
国語の成績が飛び抜けていい水萌と学年主席の私がそれに選ばれるのは、特に不思議ではないため疑問には思わなかった。
だがこの子がそんなものをやることが信じられなかった。
中学の頃に知り合って三年は経ったが、面倒くさいことは好まずに割り切った生き方をしている。
その上国語が好きだが数学が常に赤点という差の大きい生徒。
今回も面倒くさいで切り捨てるのかと思っていたが、参加の意思を見せて夏休みに話を聞きに来る。
まぁ、聞きに来たのはいいが玄関で目を離した隙に居なくなり、私一人で話を聞いていたのだが。
「図書カード欲しいもん」
プールに浮かんだまま彼女は答えた。
ああ、はい、そんなもんですよね。
そして肝心の玄関で消えた理由と、ここに浮かんでいる理由の方は「暑かったから」ということ。
取り敢えず上がれと言うと彼女は渋々と言った様子でプールサイドに上がってくる。
びしょびしょに濡れて水を吸った制服が重そうに色を変化させていた。
白いセーラーが透けて見える色気のないボーダーのキャミソールを見つめながら、このままでは帰れないので制服を干す為にジャージを取りに行こうとすると、彼女の白い手が私の足首に絡みついた。
水に浸かっていたせいで冷えていたその手。
驚いて振り向くと彼女は濡れた髪を頬に張り付けながら、妖艶に微笑んだ。
「…えいっ」
小さな声だが楽しそうな色を含んだその声。
彼女は再びプールに飛び込んだのだ、私の足を掴んだまま。
二人を迎え入れた水の中、プールは大きな水飛沫を上げた。
水の上から顔を出して楽しそうに笑っている彼女。
正直に言うと殴りたくなった。
彼女が両手で水をすくって空へ放つ。
キラキラと太陽の光が乱反射して私達に降り注ぐ。
それを見つめていると彼女が笑いながら「ね、気持ちいいでしょ?」と聞いた。
私はそれに答えずに空を眺めた。
空は今日も青かった。