8.犬王と蜂王の言い分
ノルベールを探してたどり着いたのは東の応接間。
客と会ってるらしいけど、入っていいって言われたから入ると
「あなたがアレンさんですかぁ!ウワサ通りのサラサラツヤツヤ、ステキな毛並みですぅ!
匂いも、とってもいいフェロモンが出てて…たまりませーーーんっ!」
くんかくんかしながら俺の周りをチョロチョロ走る幼女は多分、犬王。
頭の上の犬耳がぴこぴこ動いて、ふさふさのしっぽがやたらパタパタしてる。
トイプードルとかチワワにじゃれつかれてる図…を想像してもらえば雰囲気わかるかな。
くるくる俺の周りを回って、ニコニコ笑って俺の腕とか足にまとわりついて…いやぁ、かわいいなぁ。
んで、それを腕組みしながらアゴと腰に手を当てて見てるのが多分、蜂王。
パッと見は金髪のグラマラスなおねーさんなんだけど、手が四本あって透明な羽がはえてる。
よく見ると、白目がなくて目ン玉全部が紺色で…なんか不気味だ。
「…アレン様?是非、我が領地へ足をお運びください。蜂族総出で歓迎いたしますわ」
ふっと蜂王さんが微笑みかけてくる。…確かハチって、ほとんどがメスなんだよな。
オスはレアで、繁殖期に繁殖のためだけに生まれるとか。そんなトコに男の俺が行ったらヤバくね!?
絶対、干物になるまでシボられるって!うわぁ…でも、男のロマンだよなぁ。
よりどりみどりで次から次へ。朝から晩までヤりたいほーだい…。
「ダメですよぉ、アレンさぁん!ウチの民はみーんな、ご主人様に従順ですぅ!どうですかぁ?」
「主への忠誠度ならば蜂族も負けませんよ?上下関係は絶対ですもの」
幼女とおねーさんにぐいぐい腕をひっぱられて、俺がイイ気分になってると
「く…ふふふふっ…それくらいにしてやれ。どうもよからぬ妄想をしているようだしな。…ふ、くくく…」
ノルベールが笑ってた。なんだよ。イイじゃんか、ハーレムに憧れたって。
男子究極の悲願だぞ!…なんて思ってると、犬王ちゃんと蜂王さんがアツいまなざしで俺を見てくる。
「アレンさん、騎士になるんですよねぇ?任地の希望ってあるんですかぁ?ナイならウチに!」
「私たち蜂族も精鋭揃いですわ。是非、軍事教練をしていただきたいのですが」
そうそう、こうやってオンナのコたちが俺を取り合っ…や、ちょっと待って。
なに?今なんつった?軍事教練?騎士?ナニその物騒な話。誰がよ?…俺がッ!?
「すまないな。騎士は騎士でも何処にも属さぬ、私の専任騎士だ」
「…あっ、ズルーい!陛下、アレンさんを一人ぢめする気だぁ!」
「残念です。陛下の騎士では、どちらが守られているのかわかりませんもの」
「ははは、随分な言い様だな」
当の俺を無視して、三人はきゃっきゃきゃっきゃしてる。
…あのな、いくら俺が魔界に留まるったって、ソレはマズいと思うぞ?魔界で騎士になった人間なんて聞いたことナイ。
しかもノルベールの専任騎士ってコトは、魔王の命をねらう奴と戦うってコトだろ?そんな奴、勇者しかいなくないか?
つか俺がその勇者だし。ドコに自分を殺しに来た奴を騎士にする王サマがいるんだよ?なぁ、正気かよ。
「…陛下、アレン様が固まっておられますが」
「ん?あぁ、まだお前には話していなかったな。まずは座れ」
言われるまま、俺はイスに座った。テーブルの上にはテイーカップとクッキーらしき真っ黒物体。
それを囲んで座る、魔王、犬王、勇者、蜂王。…なんかどんどん、おかしなコトになってきた。
「お前を私の騎士にする…これは極めて異例かつ特殊な措置だ」
そう前置きして、ノルベールは説明を始めた。