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魔王の紋章ーdefinitionー  作者: あさくらちほ
1章 それぞれの言い分
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7.仲間たちの言い分

そんなこんなで、俺たち勇者アレン一行VS魔王ノルベールの決戦から二ヶ月がたった。

とりあえず俺は魔王城の一部屋を貸してもらって、そこで寝起きしてる。

仲間たちも似たような感じで、闘士のシュタイナーと魔法使いのミレーヌは犬族の国、弓使いのリディと女騎士のフィオは蜂族の国で暮らしてる。

つってもタダ飯食らいじゃ悪いから、畑を耕すのを手伝ったり、色んな技術とか知識を教えたりしてるとか。

今日は魔王城の客間にみんなで集まって 、近況報告会みたいな感じ。

「犬族の農家さんと一緒に育てた魔界ラディッシュでジャムを作ってみたの。色はちょっと気持ち悪いけれど…味は格別よ」

ミレーヌがテーブルにドドメ色のドロドロが入ったビンを置く。…これ、スライムじゃないの?食べれんの?

「この通り作物は育つし、土壌も悪くないんだよな。問題は日光の少なさだなぁ」

言いながらシュタイナーは平気な顔してクラッカーにそのドロドロをぬって…あ、食べた。

だいたい、そのクラッカーみたいのだって真っ黒けだろ。魔界の麦はそーいう色だから仕方ないけど。

「ですね。蜂族の領地も花が咲いているとはいえ、人間界の花と比べると蜜の精製効率が悪いとか」

リディも涼しい顔して真っ黒クラッカー食べてるけど、ぬってるのは青とか紫のドロドロ。

蜂族が作った蜂蜜らしいけど…どう見たってブルースライムとパープルスライム。

「だからアタシはイヤだって言ってるの!」

そう言ってフィオがいろんな色のドロドロたちのビンをテーブルのはじっこに寄せる。よかったぁ…俺の仲間にも常識人がいて。

「それで、アレン。アンタの方はどうなのよ?」

「へ、なにが?」

「な・に・が、じゃないでしょーーーッ!?アンタが“平和的に戦いを終わらせたい”って言うからっ!

 アタシたちが何のために魔界でこんなことしてると思ってるのよーッ!」

フィオが俺の胸ぐらをつかんでユサユサしながら右手を振りかぶる。や、ヤバいっ!

「往復ビンタはヤメテっ!マジ痛いからっ!」

実は俺、みんなに魔界に留まるホントの理由を言ってない。

『表面上は魔王と和解。んで、懐にもぐり込んで弱点を探って、二度と人間界侵攻なんかさせないようにする』ってウソついて。

まぁ、“魔王の紋章”の謎を解いて次の魔王が現れないようにするってのも、弱点っちゃあ弱点なんだけど。

まさか俺とノルベールが一緒に謎解きしてるなんて、思ってないだろうなぁ…。

「だからあのまま倒しちゃえばよかったのよ!」

「でも、それではまたすぐに次の魔王が即位してしまうんでしょう?

 今の魔王さんが即位したのも、先代勇者レオノーラ様が魔王カエサリオンを倒してすぐだったそうじゃない」

「カエサリオンにしても、先々代魔王が倒された直後に即位したみたいですしね。

 その前も、その前の前も…どこまでいってもイタチごっこのようで…」

「だからこそ、せめてほんの一時だけでもみんなが安心して暮らせるように、魔王を倒す!

 それがアタシたちの使命っ!今さらこんなコト言わせないで!」

「…あらぁ。フィオちゃん、あなたアレン君の言うことなら何でも聞くのかと思ってたら違うのねぇ?」

「ちょ、ミレーヌっ!ハナシ、すり替えないでよッ!」

「僕はアレン君を信じていますからね。どこまでも着いていきますよ♪」

「リディっ!あんたッ…!」

おーおー、お前らホントいつも通りだな。安心したけど…でも、フィオの言い分もわかる。

“魔王を倒した”って伝わるだけで人間界の人たちがどんなに喜ぶか…わかんないわけじゃない。

だけど結局はヌカ喜びだよなぁ…って、実はずっと思ってたんだ。

だからノルベールにあんなコト言われて、ちょっと嬉しかった。

もしかしたら本当に、ずっと平和になるかもしれない。そのためなら俺、がんばりたい。

なんだってしたい。そう思ってこの一ヶ月半、一生懸命、古い本を読んだけど

「わりぃ。まだ全っっっ然、解決策どころか糸口も見つかってなくてさ…」

だいたい、当のノルベールは政務があるとかで、調べものを始めるにしても 夕方から。

俺は別に仕事とかないから、一日中、図書館にいてもいいんだけど…読書なんて慣れないならキツい。

目がシパシパしてくる。居眠りしてて、もう何回ノルベールに怒られたか。

「アレぇン、お前っ!あの魔王“どストライク”って言ってたじゃねーか!がんばれよッ!」

バシッてシュタイナーが俺の肩を叩く。ばぁか、やめろって。

「ウソぉッ!?そんな……さ、サイテーっ!ドコがいいのよ!?意味わかんないっ!」

「ツルペタキレイ系がタイプなら、僕にもチャンスあります?」

「こーら、ダメよ。パーティ内恋愛はややこしくなるから禁止」

「おっ!経験者は語る、かぁ?どーなの、どーなの、ミレーヌ先生っ!」

「ミレーヌ、そういうのに詳しいの!?ちょっと待って!め、メモ帳、メモ帳…」

なんだかんだでみんな、旅をしてる時より生き生きしてる気がする。

言いたい放題で笑って、はしゃいで。こういうのも悪くない。だけど

「…早くなんとかしなきゃなぁ」

ぽつっとこぼすと、リディがぴっと人差し指を立ててニコッと笑う。

「アレン君。旅の基本は情報収集、ですよ?

 ほら、よく立ち寄った村や町で住民の方にお話を聞いてたじゃないですか」

…そうだ、忘れてた!勇者の旅は、街での情報収集とアイテム探しから始まる。

古文書とか読むのは、洞窟とか迷宮で迷ったり、ドコ行けばいいのかよっぽど悩んだ時だけ。

「よっしゃ!そうと決まれば…ノルベールに外出許可と地図もらってくるっ!」

そう言って部屋を飛び出した俺を、みんなが残念な目で見てたなんて、あとで聞くまで知らなかった。

そーだよな。魔王に 外出許可と地図もらう勇者なんて、俺も聞いたことナイわ。

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