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魔王の紋章ーdefinitionー  作者: あさくらちほ
1章 それぞれの言い分
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4.勇者の入院生活

「…ん…ぅ、ん…?」

ぼーっと目を開けたら、見慣れない白い天井。窓の外には灰色の空と見慣れない街並み。

…あ、そっか。俺、今、魔界の…魔族の病院に入院してるんだっけ。

魔界っていうと、なんかもっとドロドロウニャウニャしてるんだと思ってたけど、けっこう普通なんだよね。

空は確かにずっと雲に覆われてるけど、街並みとかは人間界とあんまり変わらない。

木とか草は黒に近い緑だったり、逆にパステルカラーだったりするけど、食虫植物ってわけでもないし。

そりゃ、野生の魔物はおっかないけど、人間界に野生の狼とか熊がいるのと一緒。住んでる人…いや、魔族だって

「おはようございまーす。アレンさーん、朝ですよー」

タオル片手にやって来たのは、薄水色の服きた若い看護婦さん。

ちょっとぽっちゃりしてるけどボインちゃんで、人懐っこい感じでニコニコ笑って。

そう。手が四本あって頭から触角が生えてたりしなきゃ、ホント普通なんだよな。

「…はよーございます」

「あら?まだおねむですか?もう少しで朝ごはんの時間ですからね。その前におトイレを…」

なんて言いながらベッドの下からゴソゴソ尿瓶を取り出して

「や、いいっス!自分で行くっス!」

慌てて俺は飛び起きた。いや、確かに看護婦さん的には仕事なんだろーけどさ。

やられる側としては、なんつーか…その…ねぇ。朝ならなおさらアレっしょ?

個室とかならまだいいけど、部屋の真ん中のカーテンの向こう側。隣のベッドには

「陛下、おはようございます。失礼してもよろしいでしょうか?」

「構わん、入れ」

聞こえてきた返事に、看護婦さんはカーテンのすき間から中に入ってく。ゴソゴソカチャカチャ…なにしてんだろ。

そーっ忍び寄ってすき間からのぞこうとしたら、バッと看護婦さんが顔だけ出してきた。

「わッ!?なんスか、急に…」

「それはこちらのセリフですねぇ。親しき仲にも礼儀あり。

 それとも、どーーしても尿瓶でなさりたいですか?陛下の目・の・前・で」

なんて言われて、俺はわたわた廊下に出た。朝のちょっとせわしない感じの病院の廊下。

雰囲気は人間界の病院とあんまり変わんないけど、やっぱ一番ちがうのはすれ違う…魔族。

魔族ってのはパッと見、人間とあんまり変わらない。でも、よく見ると微妙に違う。

頭にケモノ耳とか触角とか角が生えてたり、羽とかしっぽが生えてたり。

しかもそれぞれに違うとこが違って…なんでも、種族ってのが三十くらいあるらしい。

さっきの看護婦さんはアリ族。俺の主治医みたいなオッサンはサル族だって言ってたな。

そーいや、旅してる時は色んな奴らと戦った。リュウ族、サカナ族、カブトムシのカブト族、ウシ族…。

「はぁ…」

なんでこんなコトになっちゃったんだろ。立ち止まって外を見ると、灰色の空。

これもただの雲じゃないんだよな。瘴気…だっけ。魔力の源の成分だかが入ってるとかいう。

まぁ、人間界生まれで人間界育ち、百パー人間な俺が普通だしパワーアップもしないから、ホントかどうかわかんないけど。

で、ずーっと魔界の空を覆ってて、覆われてる部分が“魔界”なんだな。

昔からずっと続いてきた、人間界と魔界の戦い。

始まりのきっかけが何かだったなんて今はもう誰も知らないし、どうでもいいんだろな。

ずっと戦ってたから戦う。何かを奪われたから奪って、奪い返されて。そうやってずっと繰り返してきた。

それ自体は仕方ないと思う。今さら和解なんて、どっちもなかなか引っ込みつかないだろうし。

だけどまさか…魔族のリーダーの魔王に、あんなトンでもない秘密があったなんて。

「…早かったな。もう少しゆっくりしてきても構わんぞ?」

病室に戻ると、ベッドに起き上がった魔王が薄く笑ってた。

『闇炎の魔王』ノルベール。たった十年で人間界の四分の一を魔界に落とした、史上最強最悪の魔王。

実際、あの魔王城・謁見の間での決戦も、俺たち勇者一行VSコイツ一人でやっと五分だったし。

それが今は…薄いピンクの入院着きて、長い髪をゆるく結んで、あっちこっち包帯やらバンソウコだらけで、のんきにベッドに座ってる。

…ま、俺も似たようなカッコだけどさ。

「なぁ、こないだのアノ話なんだけど…」

「朝からディープな話題だな。そう急くな。ほら、朝食が来たぞ」

振り返ると、看護婦さんがお盆にのせた朝ごはんを持ってきてた。

ついついお腹がきゅうって鳴って。俺はとりあえず朝ごはんを食べることにした。

**********

「…なぁ、なぁ」

「煩いな。お前と違って私は忙しいのだぞ。こうしている間にも仕事は溜まっていく。

 ただでさえお前たちが攻めてきたせいで一般政務は滞っていたというに…」

朝ごはんを食べ終わってまったりしながら話しかけたら、魔王ノルベールはギロッと俺を睨んだ。

ベッドの脇の机に山積みの書類。その一枚一枚に目を通しながら、なんかメモって。

せっせせっせ書類を片付けてる姿は、魔王っていうより試験前にテンパってる受験生みたい。

しばらくそんな横顔をながめてたら、ふっと魔王ノルベールは息をついて、俺の方を見た。

「そうやって見られていると、監視されているようで敵わん」

「んじゃ、俺とお話してよ」

一瞬、ムッとした顔したけど、魔王ノルベールはペンを置いてちゃんと俺の方を向いてくれた。

「何だ、言ってみろ」

「いや、言ってみろっていうか、俺があんたの話ききたいんだけど」

シーーーン。え、なにそのイヤそうな顔。

「あの時、話した通りだ。魔王を倒せば、倒した者が“魔王の紋章”を受け継いで次の魔王になる。

 詳しい仕組みについては私もよくわからん。だから謎解きに協力しろ。

 …お前がどうしても魔王になりたいか、私に殺されたいのならば話は別だがな」

「いや、だからさ。具体的になにすればイイの?」

「差し当たり古い文献をあたるしかあるまい。まさか私で解剖実験するわけにもいかんからな。

 ともあれ、お互いこの有り様では動きようが無い。今は傷を癒すことに専念するだけだな」

…って言いながらこの人、仕事してるよね。あ、人じゃなくて魔族か。…ん?あれ?

魔王を倒した奴が次の魔王ってことは、コイツ元は人間?確かにケモノ耳とか無いし、人間っぽい。

でも…瞳が真っ赤なんだよね。良く言えばルビー。悪く言えば血みたい。鮮やかな真紅。

人間どころか、魔族でだってこんな真っ赤な瞳の奴なんて見たことない。

それ以上になんつーかアレだ。動く人形みたい。ホント色白でツルッとしてて、シミとかホクロとかなさそう。

これで『魔王です』とか、その時点でサギだよな。ドレス着てお城とかにいたらわかんないよ。

……あれ?コイツ、女…だよな?うん、声は女。ちょいハスキーぎみの。にしちゃー胸がペッタンこ。

ウチのまな板女…女騎士のフィオとイイ勝負だ。つか勝てそう。あれでフィオも一応それっぽいのは付いてるし。

え、じゃあまさか男っ!?こんなキレイで!?うわ、ヘコむわー…。そっか、そうだよな。

じゃなきゃ、俺と相部屋とかありえないもんな。マジかぁ…。や、希望を捨てちゃダメだ!

確かめてみなきゃわかんない。そうだよ、触ってみなきゃ……。

「…何だ、お前。その怪しい手つきは」

「とりあえず触らせて」

「は?…おい、やめっ…は、離せっ!」

「いーからじっとして!ちょっともむだけ!確認するだけだからっ!」

「何をだっ!?…や、やめ……っ、このケダモノがッ!喰らえ、雷撃斬ッ!!」

「ギャーーーーーっ!!」

……そんなこんなで、俺の入院生活は三日ほど伸びました。

え、確認した結果はどうだったかって?ムフフ…。

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