2.勇者の言い分
魔王。その言葉から人はナニを想像するかな。
角とか牙とか羽がはえた大男?醜いバケモノ?影みたいに実体のないモヤモヤ?
俺もそんなモノを想像してた一人だ。
人間界最大の脅威『闇炎の魔王』ノルベールを倒すべく、旅に出た俺ーー『日輪の勇者』アレン。
古くから続く例にならって仲間を集め、世界を旅し、魔王城にたどり着き、ついに魔王と対峙。
命がけの激戦の末に魔王を倒して、世界に希望と平和を取り戻す……はずだった。
や、確かに、お互いけっこうな大ケガするまで戦ったし?
とりあえず人間界侵攻もやめたらしいし?
結果オーライっちゃあ、オーライなんだけどさ。
「……何だ、その不服そうな微妙な顔は」
だからってこんなのあり得なくね!?
勇者と魔王が包帯グルグル巻きで、仲良くベッド並べて病院に入院してるとか!
しかも、その魔王ってのが長い黒髪で色白、きゃしゃで、クールビューティーな感じなのにちょっと童顔で…。
要は、俺の好みド真ん中!とか、どんな罠だよ。どんだけファンタジーだよ!?
「とにかく怪我を治さねば、やりたいこともできん」
「やっ…ヤるとか、おまっ…えぇぇっ!?」
「何を赤くなっている。二人で魔王継承というシステムについて調べるのだろう?」
そ。俺たち勇者一行vs魔王の最終決戦の終盤。決着がつくっていう、まさにその時。
コイツは『私を殺せば、お前が次の魔王だ』とかなんとか言い出した。
ただの命乞いのデマかせ…そう割り切ってとどめをさすには代償が大きすぎる。
仲間たちに相談しようにも、みんなボロボロのヘトヘト。
だからって下手に背を向けたり、剣を下ろして不意討ちされるのも困る。
そんな、どうしようか悩む俺にコイツは『詳しく知りたくはないか?』って手を差し出した。
ヒラヒラ宙を舞う、細くて白い指があんまりキレイで優しくてはかなげで…。
誘われるみたいにウッカリ握りしめたら、こんなコトになった。
つか、実は本人も詳しいコトは知らないとか、だから調べるのに協力しろとか、軽くサギじゃね?
でも今さら殺す気も起きないし、なにより、その…時々、妙にカワイいんだ、これがまた。
「…そうなれば忙しくなる…だから、もう少し…休もう…」
そう言って魔王ノルベールはトロトロ目を閉じる。
年は40近いらしいけど、どう見たって16歳の俺のちょっと上くらいにしか見えない。
さらっさらの長い黒髪。めっちゃ長いまつ毛と、しゅっとした涼しげな目もと。
唇はちょっと薄めだけど、赤くてうるつやでオイシそう。
額に浮かぶ“魔王の紋章”は、目みたいな形とウニョウニョした模様でちょっと不気味だけど。
原住民とかの入れ墨とか化粧みたいなもんだと思えば、問題ナッスィング。
ほっぺたとか触ったらモチモチしてそーだな…なんて手を伸ばした瞬間。
見開かれた真紅の瞳と目が合った。
「一応、言っておくが、ここでお前が何か仕出かした場合。
私の安否に関わらず人間界を攻め滅ぼせ…と魔界全土に勅令を下してある。
それを撤回できるのは私だけ。努々、忘れるなよ?」
にっこりと神々しくも極悪な微笑みを浮かべて、魔王ノルベールは目を閉じた。
…人間界のみなさん、ごめんなさい。
俺がうっかり一目惚れしちまったコイツは魔王な上に、とんでもないツンツンでドSのようデス。