最終話 紫の花
決して教えてはくれなかった彼の過去。
「時也君・・・。」
堵色は小さく呟いた。
涙はなかなか止まらなかったけど堵色の表情はどこか穏やかだった。
私は時也君と出会えた事や一緒に笑った二ヶ月間を忘れない。たとえこの先誰か他の人を愛したとしても。私の中で三石時也という存在の大きさは変わる事は無いのだから。
雨が平気なわけじゃないし、時也君の事を忘れたわけでもない。
ただ、少しだけ自分を許したの。前を向く為、時也君が救ってくれた命を精一杯生きる為
に・・・・・・。
一年後の時也の命日、二人は時也のお墓の前にいた。
「智也君、これ…。」
堵色は時也が一番好きだと言っていた花を智也に見せた。
「涼宮。それ、兄さんに…」
堵色は少し赤くなって頷いた。
「うん。枯れないか心配だったんだけど、時也君も喜んでくれるかな。…なんで時也君はこの花が好きなんだろう。紫色のチュウリップなんて…。」
堵色は花束を時也のお墓に供えた。
「智也君もいろいろありがとう。智也君がいなかったらきっと私まだ泣いてたよ。」
「俺はなにもして無いよ。でも、兄さんは短い人生だったけど後悔はしていないと思うよ。涼宮っていう彼女も出来て…。」
「智也君ありがとう。」
堵色は笑って言った。
「本当に兄さんが羨ましいよ。兄さんよりも先に出会ったてたら、君は俺を好きになってくれた?」
智也のそのつぶやきは堵色には届かなかった。
「涼宮!紫色のチュウリップの花言葉は『永遠の愛』なんだよ。」
その言葉に堵色はくすりと微笑んで時也の方に向かって口を開いた。
「私も時也君が好き。きっとずっと永遠に。…もう、帰るね。智也君はまだいるよね。」
堵色は小さく智也に手を振って帰っていった。
それから半年。
堵色は真新しい高校の制服に身を包んでいた。
暖かい日が差す昼休み、堵色は学校の裏庭にいた。差出人無しの手紙での呼び出し。指定の時間にはまだならない。堵色はすぐ近くにある、花壇を眺めていた。
そこに咲いているのは色とりどりのチュウリップ。
「涼宮さん。世界で一番好きです。」
堵色は花壇から目をはなし、その男子生徒に向き合った。
「ごめんなさい。わたし、付き合うことはできない。他に好きは人がいるから。」
堵色はそういうと頭を下げた。少年は「そっか、」と言ってどこかに走っていった。
「あれからどれだけたったんだろう。時也君。わたし、時也君以外の人を好きになんてなれるかしら。」
堵色は小さくわらった。堵色がさっきまで眺めていた花壇のほぼ中央には紫色のチュウリップが揺れていた。
紫の花。時也君と私の一番好きな花。