第七話 日記
「・・・誰?」
「三石智也。時也の弟です。涼宮さん、これを・・・。」
そう言うと智也は鞄から小さめのノートを堵色に手渡した。
「時也君に弟がいたなんて。」
知らなかった。
堵色はこの時、最後まで何も教えてはくれなかった事に再びショックをうけた。だけどずっと止まらなかった涙だけはいつのまにか止まっていた。
シンプルなノートの表紙には時也の整った綺麗な字で{涼宮堵色様}と書かれていた。堵
色は振るえながらもその文字をゆっくりなぞり表紙をめくった。
時也君の字だ。
{{涼宮さんへ。}}
日記代わりにこのノートに僕の事を記していきたいと思います。いつか二人で読み返して笑えるといいと思います。付き合ってもいないのにずうずうしいと思うでしょうか?でもいいのです。これはきっと、涼宮さんが読むことはないからです。僕は弱虫で誰かに自分の事を話すのも想いを伝えることなど出来ませんから・・・・・。○月○日。
少し読むと堵色はまたパラパラとページをめくっていた。
僕がはじめて涼宮さんを好きになった日のことです。僕には双子の弟がいて幼い頃はそれがとても嬉しかったんです。だけどいつの間にか僕自身が弟の影の隠れている事に気付きました。だから弟と外で遊ぶことが嫌いになり、人と関わることを嫌いになりました。そんな僕を少しだけ救ってくれたのは貴方の存在でした。話をしたことも、目を合わせたこともないのに僕は貴方が好きでした。□月○日。
今日、貴方が学校を休み始めてからもう3日がたちます。お母さんが亡くなられたそうです。心配です。貴方が悲しみに潰されるのではないかと・・・。だけどなんの関わりも無い僕にはどうすることもできませんでした。・・・・・僕に貴方との関わりを下さい。◇月□日。
しばらくノートをつけるのを休みました。もう一年くらい経つでしょうか?でも僕の気持ちは変わりません。昨年最後につけた日記に思いが通じたのか、貴方との関わりが出来ました。本当に嬉しくて僕はとても久しぶりに笑った気がします。○月◇日。
今日僕は貴方に告白しました。貴方はいきなり泣き始めるので正直戸惑いました。だけど
僕のことを好きだと言ってくれて零れそうな涙を堪えるのがやっとでした。僕は貴方・・・堵
色に出会えて本当によかったと思っています。例えば明日僕が死んだとしても堵色が笑っていてさえくれればきっとなんの後悔もしないと思います。だから日記は今日が最後です。十年や二十年後二人で笑えたら…。
堵色は泣いていた。ついさっきの悲しみだけの涙とは違った沢山の気持ちが溢れた涙。そして最後のページで手を止めた。
最後に〜。
僕は堵色に沢山の事を秘密にしてきました。いつも僕の事を知りたがっていたのに、いつも堵色に下を向かせていたと思います。ごめんなさい。だけど僕、三石時也は堵色と出会えて初めて自分という存在を認めることが出来ています。ありがとう。そしてこれからもよろしく。…END
「時也君。」
「出会わなかったらなんていわないであげて下さい。兄さん・・・時也にとって涼宮さんは、初めて自分で掴んだ人なんです。」
智也は優しく言った。
智也は解っていたからだ。堵色がもう次に進む強さを持っている事も。
堵色は閉じたノートを抱きしめ、泣いていた。
堵色は時也が亡くなってから初めて時也の沢山の事を知った。