第六話 二ヶ月の日々
最後に笑った時也の表情は変に明るくてもう一度笑えば目を開けてくれるような気さえした。もう一緒に話すことは出来ないのだと言う事を堵色は認めることが出来なかった。
「時也君…。いや。死なないで。目を開けて、傍にいて。」
気が付くと堵色は叫んでいた。
長い片想いの末に通じた大切な時間はたった二ヶ月間だけだった。
堵色は自分を責めた。
私が好きにならなければよかったのかな・・・。
いっそのこと出会わなければ・・・。
涙を止めることすら出来なかった。
「時也君・・・。ごめんなさい。私のせいだ。私がいたから、私があの場所を歩いたから…だからこんな事になったんだ。時也君にはまだ未来があったのに。あの人はこんなところで死んでいい人じゃない。…私どうすればいいの?どうやって償えばいいの?時也君の未来は…」
私が泣いてばかりいるから、もう開かないその瞼の向こうで時也君が悲しそうに立っているのではないかと、そんな気がしてならないのに…涙は一向に止まらなかった。
「堵色・・・今日はもう帰ろ?」
二人の姉に連れられ堵色はその場と後にした。
どうして大切な人だけを失わなければならないのだろう・・・・・・。
視界は彼を最後に包んだ死のように真っ黒となった。悲しみが体中に染み付き堵色は時也の死から立ち上がることが出来なかった。
「堵色、もう自分を責めないで。三石君だってそんな顔させる為に堵色を助けたわけじゃないでしょう。堵色がそんなんじゃ、三石君はずっと報われない。」
病院から帰ってもう一ヶ月経つというのに、ずっと蹲ったままの堵色に沙希は言った。
「わかってる!」
「じゃぁなんで…。」
「…笑う事が出来ないの。…時也君はもういないの。もう生きてる意味なんてない。私と出会ってしまったから、時也君は…私が殺したも同然なの。なのに私、笑っていられるはずがない。」
堵色の今にも消えてしまいそうなその声に沙希は言葉を失ってしまった。
「堵色…。ごめん。」
ちょうどその時、堵色を訪ねて来た人物がいた。どこか見慣れた短い黒髪の男の子。なぜか息を切らして立っていた。
「涼宮さん・・・。」
私を呼ぶその懐かしい声に顔を上げた。
「時也・・君。なんでここにいるの?」
時也がいるのだ。死んでしまったはずの時也が目の前にこうして立っているのだ。矢夜がここまで連れてきたのだろう。その人の横で俯いたまま立っていた。
「時也君。どうして…。」
堵色がゆっくりと手を伸ばした時、時也は言った。
「…俺はあなたに渡すものがあって来ました。」
その言葉で時也に良く似たその人物は時也とは全くの別人だとわかった。外見や声などは似ているが目の前の彼がもつ言葉使いや堵色を見る目などは時也のものとはまったく違った。
時也君が私を見る目はもっと優しくて、それだけで幸せな気持ちになれた。
でもこの人は悲しみに満ちた、孤独な目をしている。