第四話 好きになった理由
それから一週間もすると時也と堵色が付き合いだしたことは学校中に知れ渡った。時也の笑う回数は日に日に増し、告白は他校生にまで及んだ。
その日、二人は時也の家へ行く途中だった。
堵色が忘れ物をとりに時也の傍を離れた時だった。
「あの、三石時也さん。ずっと好きでした。私と付き合ってください。」
そう言って来たのは制服から見て多分隣にある女子校の生徒だろう。
俯きながらも時也の前に立っている女の子の髪は堵色とはまた違って綺麗なウェーブがとても良く似合っていた。
「ごめん。その、彼女いるから。」
時也が断ると女の子は顔をあげて言葉を続けた。
「涼宮堵色さんですよね。私の学校でもあの人は有名ですから知ってます。だけどあの人の家って…。」
女の子の言葉に時也からさっきまでの優しさが消えた。
「あのさぁ、俺のことは何言ってもいいけど涼宮の事を言うのは許さないよ。」
急変した時也の態度に女の子は泣きながらどこかへ走り去った。
「涼宮…。ごめんね。」
その言葉が合図だったかの様に堵色が物陰から顔を出した。
「時也君が怒ってくれただけでいい。…それに時也君って怒ると自分の事、俺っていうのね。」
時也は赤くなって「家族のがうつったんだ。」といった。
堵色は悲しそうに微笑んだ。
「行こうか。」
二人は横に並んで歩き出した。
「涼宮はさ、僕のどこを好きになってくれたの?」
時也は隣を歩く堵色に訪ねた。
「えっ…。」
堵色は少しだけ躊躇ったが、やがて口を開いた。
「一目惚れだったの。時也君は覚えてないかもしれないけどね、小さい頃に一度逢っているのよ。私達・・・。」
「覚えてないや・・・。」
時也は必死に記憶を探ったが幼い頃に堵色と逢った記憶はなかった。
「無理に思い出すことはないの。私が覚えてるから・・・。」
堵色は微かに微笑んで数歩前へと出た。
時也君は自分の事を話さない。だから私は何も知らない。家族のこと、昔のこと、全部。
訪ねれば悲しそうに俯くだけだ。だからいつの間にか私はなにも聞かなくなった。
一番好きな人の一番知りたい事を・・・。