第三話 繋がり
沈黙ばかりが続いた。
「お姉さん?・・・」
「堵色。もういいの?」
「ええ。」
沈黙を破ったのは堵色だった。堵色はすぐにその場にいるべき人の数が一人多い事に気が付いた。
「あっ・・・。」
その人物の顔を見て視線をすぐにずらした。
「涼宮、もう平気?」
時也が笑いかけると、堵色は俯いてまた「ええ。」と小さく言った。
「あの、すみません。いろいろと・・・。私、雨が苦手で・・・あの。」
「あやまる事はないよ、欠点が無い人間なんてこの世界にはいないんだから。」
まるで人形のように微笑む時也だったが内心落ち込んでいた。堵色が自分の事を知らないと頭ではわかっていたはずなのに堵色の時也に対する態度はまるで他人だ。そのことが時也の心に重く圧し掛かった。
「時也君にも・・・あるんですか?」
「・・・・・・え。あっうん。じゃあ、もう帰ります。」
そういうと時也は慌てたように立ち上がった。それに続いて矢夜と沙希が立ち上がったが時也は見送りを断った。
「じゃあ、私がいきます。お世話になったのは私ですから。」
堵色は時也の後に続いた。時也は堵色と二人きりにされ緊張のあまり口を開くことはなかった。家の外にでると堵色は「それじゃあ」と手を振る時也に声を掛けた。
「あの・・・時也君、また明日学校で!」
俯いて歩いていた時也はその堵色の一言に顔を挙げて優しい笑顔を見せた。
時也は嬉しかったのだ。
堵色が自分の名前を知っていてくれた事。また明日彼女に関わることが出来ること。
長い長い片想いの中で偶然手にした関わり。
手放したくはなかった。
毎日が当たり前すぎて、まさかあんな形で失うとはこの時の僕は思ってもいなかった。
次の日、彼女が「おはよう。」と声をかけて来た。
嬉しくて仕方なかった。昨日の朝には無かった繋がり。
「おはよ。」
僕は今までにないぐらい心の底から微笑んだ。
「ねえ!今見た?三石君の笑顔。」
「見た!超かっこ良かった。なんで今まで気付かなかったんだろう。」
沢山の人がいた教室で女子達が騒ぎ出した。だけど時也はそんな女子の言葉など聞いてはいなかった。時也にとって堵色以外の人間はみんな同じだ。どんなに想いをぶつけられてもさらりと交わしてしまう。だがその日から時也の机には何十通もの手紙が入っていた。すべて告白するための呼び出しの手紙だった。
屋上や裏庭などさまざまな場所での告白を受けた時也だったが誰とも付き合うことはなかった。それが何日も続いたある日の屋上。時也は一人ため息を吐いた。
「あの、時也君。大丈夫?なんかつらそうだよ?」
心配そうに時也をのぞき込んだのは堵色だった。
堵色の顔を見るなり時也は安心したかのように目を閉じ再び開くとゆっくりと話し始めた。
「涼宮・・・。ずっと好きだったんだ。本当は言うつもりは無かったんだけど、みんなの想いを聞いてるうちに、このままじゃだめだなって。僕は嬉しかったんだよ。涼宮が僕の名前を知っていた事。僕を一人の人間として見ていてくれたって・・・。」
時也がそこまでいうと堵色は膝を折り泣き出した。
「涼宮?ごめん、泣かせるつもりじゃ・・・。」
「違う。時也君の所為じゃないの。わた・・私も時也君が好きだったから。嬉しかった。私なんかを好きになってくれてありがとう。」
二人の黒い髪が風に揺れた。
告白なんて気持ちの押し付けはもううんざりだったはずなのに…涼宮の言葉だけは、とても嬉しかった。