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慎が最初にその噂を聞いたのは、四月の中ころだった。
「座馬さんさあ、男子の先輩から呼び出されたんだって。三年生だってよ」
放課後、教室の中で、そんな女子の声が聞こえてきた。続いて、甲高い歓声の束が弾ける。
絶対告白だよ、と騒ぐ声を尻目に、慎は帰り支度を済ませていた。
翌日、やはり昨日の呼び出しは先輩からの恋の告白であったことが判明し、しかも先輩の玉砕で終わったことが、クラス中に知れ渡っていた。
座馬すばるは一躍注目の的になった。
「座馬さん、凄いじゃん。入学一週間ちょいで告られるとか!」
「……凄くはありません、なにも」
「しかも聞いたよー、振ったんでしょ? けっこうかっこいい人らしいのに」
すばるは困ったように笑いながら、適当に相槌を打っていた。
そして数日後、彼女はまた別の男子生徒に呼び出された。今度は、別のクラスの一年生らしかった。
これもまた交際を請われたものであり、前回と同じようにすばるはその場で断ったという。
この時も女子たちは騒ぎ、同じクラスの男子生徒も話に加わって、すばるを持ち上げたり、野次馬と化して実際はどんな状況だったのかを聞き出そうと腐心していた。
すばるの愛想笑いは、前の時よりもやや控えめになっていた。
翌週、今度は、慎と同じクラスの中町という男子がすばるを呼び出した。
そして告白して、振られた。
クラスの女子たちの顔は、やや引きつっていた。
このころになると、もうすばるは笑っていなかった。
放課後、席についていたすばるに、一人の女子生徒が話しかけた。
「あの、座馬さん。ちょっと、変な話聞いたんだけど」
「なんでしょう?」と、すばるは、その女子に眼だけを向けて応えた。
「座馬さんて、男の子振るとき、変わったこと言うって本当?」
「変わったことですか?」
「うん。……『人が死ななくなる方法を教えてくれますか? それならつき合ってもいいですよ』とかって」
「ええ。そう言っています。一字一句、同じですね」
その声は、慎の耳にも入った。なんだそれはと思わないでもなかったが、体のいい断り文句なのだろうと、すぐに納得した。
しかし。
「私はそれ、中町くんから聞いたんだけど」と女子生徒は昨日すばるに告白した男子の名前を出し、「今までの人たち、全員に言ってるの?」
「ええ。全員といっても、その前には二人だけでしたけど。そんなにいけないことでしょうか?」
「い、いけないっていうかさあ。ここからがほんとに変わった話なんだけど。中町くんの前、最初と二番目に座馬さんに告白した二人の人、|告白したことを覚えてない《・・・・・・・・・・・・》っていうんだよね。振られたのがかっこ悪いからとぼけてるとかじゃなくて、本気みたいで。そんなの、ありえなくない?」
すばるが目を伏せて言った。
「……それがありえるとかありえないという話を、私にされても」
「だってさあ、同じクラスの人が、『お前座馬って子に告ったんだよな?』って訊いても、『誰だそれ?』ってきょとんとしちゃうんだって。あ、でも、中町くんだけはそんなことなかったんだよ。確かに告白したって、ちゃんと覚えてて。……なんか、いろいろ変じゃない? 最初の二人にも、告白はされたんだよね? 同じ条件出したんだよね? ねえ、答えてよ」
「相手の人が知らないという話を、私が一方的にするわけにはいきませんし」
「……座馬さんって、こう、ちょっと変なヒト?」
すばるは、静かに顔を上げて、女子生徒に答えた。
「私は、誰にも迷惑をかけないようにしているつもりです。私なんかに交際を断られるというのは、男子にとっては不名誉で、不愉快なことでしょう。……だから、あんまりつらいので、ショックのあまり忘れてしまったんじゃないですか」
すばるの前に立つ女子生徒の目がすわってきた。
「そんなことあるわけなくない? ……じゃあ中町くんは? 座馬さんのこと忘れてないじゃん」




