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グレーな私

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/12

夜の台所は、やけに静かだった。


電子レンジの扉を開けると、

白いコンビニの容器がそのまま置かれている。


昨日の夜、温めたはずのご飯だ。

温めたところまでは覚えている。


しかし、そのあと何をしていたのかは思い出せない。

気づけば朝になっていた。


またやったな、と思う。


昔からこういうことが多い。


レンジで温めた食べ物を、

そのまま一晩放置して親に怒られたことがある。


カップラーメンの蓋を捨てようと思いながら、

何日も机の上に置いたままにしていたこともある。


「あとでやろう」


その言葉は、たいていどこかへ消えてしまう。


煙のように薄れて、いつの間にか思い出せなくなる。


外に何か持っていかなければならない日は、

前の晩にスマホの壁紙を変える。


白い画像に、黒い文字で持ち物を書き並べる。


財布、

鍵、

イヤホン、

書類。


朝、スマホを見る。そのときになって、やっと思い出す。


普通の人は、そんなことをしないらしい。


高校生の頃、教室の窓際で本を読んでいたことがある。

ページをめくり、次の行を追う。


それだけの時間だったはずなのに、

気づくと周りの空気が変わっていた。

顔を上げると、何人かがこちらを見て笑っている。


「さっきから呼んでるんだけど」


そう言われた。


呼ばれていたことに、まったく気づかなかった。


本の中に入ってしまうと、外の音が遠くなる。


声も、笑い声も、机を叩く音も、

どこか別の場所の出来事のように感じられる。


それが何度か続くと、無視していると思われるようになる。


無視していたわけではない。

ただ、聞こえていなかっただけだ。


締切というものが、昔から苦手だった。


まだ時間がある、と思っているうちに、

時間は静かに過ぎていく。

気づいたときにはもう遅い。


机の周りには、ペットボトルがたまる。


昔は飲みかけのものも多かった。

今は最後まで飲むようにしている。

それだけでも、少しはましになったと思う。


興味のないことは、どうしても覚えられない。


何度聞いても、頭に残らない。

先生にも、友人にも、よく怒られた。


けれど、興味のあるものだけは別だった。


ある瞬間、ふと面白いと思う。

その瞬間、頭の奥で何かが切り替わる。


気づくと、時間がいくつも過ぎている。


ときどき、良いことを思いつく。


そう思った瞬間、立ち上がって何かを始める。

途中のことはあまり考えない。

ただ、動き始めてしまう。


それが良い結果になることもあるし、ならないこともある。


もしかすると、自分は何かの病気なのかもしれない。


そう思ったことは、何度かある。

調べれば、それらしい名前はいくつも出てくる。


けれど、病院に行って手帳をもらおうとは思わない。

障害者年金をもらおうとも思わない。


今、仕事ができている。

生活もしている。

なら、それでいいのだと思う。


ああいう制度は、本当に働くことができない人や、

自分の注意ではどうにもならない人が使うものだと思っている。


自分は、ただ少し不器用なだけだ。


忘れるし、締切も守れないし、部屋も散らかる。


それでも、働いて、ご飯を食べて、毎日を過ごしている。


たまにレンジの中にご飯を忘れる。


それでも、まあいいか、と思う。


世界には、もっと大きな問題がいくつもある。


自分のこの小さな不具合は、

その中ではただの癖のようなものだ。


病気かもしれないし、違うかもしれない。


どちらでもいい。


それを武器にするつもりもないし、

誰かからお金をもらうつもりもない。


ただ、この少し変わった頭の働きと一緒に生きていくだけだ。


電子レンジの中のご飯を取り出して、もう一度温める。


台所は、相変わらず静かだった。

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