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こっちを見て
ふりてんだー
アレは、突然始まった。
ある日突然、目の前に長い黒髪の少女が出て来るようになった。幽霊にしては実体っぽい。人間にしては幻覚っぽい。でも確実に目の前にいるし、なにかを僕に話しかけて来た。
どうやら、僕の頭の中だけにいるらしいと分かるのにそう時間は掛からなかった。なぜなら、外では出ないし、友だちが家に遊びに来た時に、どうやら僕しか見えないらしいからだ。うちは家賃が高いし、地縛霊の線は捨てていた。
それからどうしたか。
僕は夢中で気づかないふりをした。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。
少女が現れると同時に、僕は夢中で小説を書いているふりをした。忙しいのだと。僕は、自分の執筆活動に溺れ、それに苦しみと悦すら感じながら創作という世界に浸かっているのだと。その少女に見せつけるように。
音を止めたら、少女の声が聞こえそうになる。思考を止めたら、少女を意識してしまう。それがただただ恐怖だった。
妄想だろうが、なんだろうが。逃げて悪いか。見て見ぬふりして悪いか。
でも、僕はついに止めてしまったんだ。
そして、少女をしっかり見てしまった。
——やっと……。
涙ぐむ少女の声は嬉しそうだった。
ぷりてんだー




