黒い・長い・髪の・少女
夢か幻か。
彼女はクラスの人気者だった。学校のピラミッドというやつの中で確実にトップの方だった。でも、派手な周囲の人間とは違い、見た目はかなり優等生といった感じだった。別に勉強もすごくできるわけじゃない。確かに可愛い。黒い長い髪をいつも軽く結んでた。耳の形も良かった。
僕たちは幼なじみだった。幼稚園から親同士が仲良くしていた。でも、そんなものは小学校に入ってから少しずつ消えていった。昔はお風呂だって一緒に入ったし、同じ布団でお泊りもしていた間柄だったのに。いつからか、「さん」づけで呼ぶようになり、クラスが離れてからは話しかけることも目が合うことさえなくなった。儚い夢だったように。
そんな関係は中学の3年まで続いた。
圧倒的。完璧なる知らぬ人。
「ねえ」
そんな声だったっけ?と思うくらい完全に他人の女子が僕に話しかけてきた。言わずもがな、幼なじみだ。いや、幼稚園、小学校、中学校とご近所だから発生しただけのワードになんの意味があるだろう。彼女に言ったら、「はあ?九九の練習付き合った時以来ほとんど話したこともないのに、オサナナジミとか言わないでよね。きっしょ」と返されるに違いない。
待て、僕の思い出と遠くから見ていたイメージで作り出される彼女の性格が悪すぎる。
「ねえってば」
「うわっ」
妄想の旅に出ていた僕の思考は幼なじみの少し大きくなった声と、目の前に突如割り込んできた可愛い顔で引き戻された。
「な、なに」
「あのさ、今度の……」
彼女は一度言葉を切って、教室を見渡す。開け放たれた窓から野球部かなにかの声と心地のいい風だけが流れ込んでカーテンを揺らしている。ガランとした教室には、なぜか僕たちしかいない。彼女は、少し微笑んでから僕を見た。
「日曜日、ヒマ?」
びゅんっ。
強い風、荒れるカーテン、広がる長い髪。可愛い、顔。
僕は彼女がずっと——好きだった。
・・・
——という感じの少女だったらよかったのに。
僕には頭の中しか逃げる場所はない。




