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動け動け動け

大人になったと思っていた。

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。


 どこからか、異質な音が聞こえる。それが自分の口の中から生まれていると気づくのにそう時間は掛からなかった。顎が強張り、歯と歯が強く弾きあっている。自分の中からうるさく鳴り続ける音に、僕は思わず耳を塞ぎたくなる。だが思っただけで実際には耳を塞ぎはしなかった。無駄だと分かっているからだ。


「………………」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。


 震える僕の耳には自分の歯がぶつかる音だけが聞こえるはずなのに、なぜだろう。声が聞こえた気がした。誰もいない部屋で。震える僕だけがベッドの上にいるはずなのに。


 どこか、温かみも感じる。腰のあたりがじんわりと温かい気がする。


 ああ……僕はとうとうやってしまったのだろうか。この歳になって。恐怖のせいで、ベッドから起き上がることもできず。失禁という大失態を犯してしまったのだろうか。ひとり暮らしで良かったと、これ以上に思えたことはない。


 僕はそっと自分のお尻あたりに手を差し込んだ。


 ・

 ・

 ・

 うん、濡れてない。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。


 僕はさらに自分の身体が、顔が、震えているのを感じながら——目の前を見た。揺れる世界でも、はっきりと見えた。僕の腕を掴んで、布団越しに僕にまたがる黒い長髪の少女が微笑んでいるのを。


 明るかった視界は少しずつ黒くなり、僕は意識を手放した。

子どものころは、よくやっちまっていた。

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