ただひたすらに
気がついたらそれは始まっていた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。
キーボードを叩く無機質で軽い音だけが響いている。僕はそれをまるで腹の減ったハムスターのようだと思う。もちろん、ハムスターなんて飼ったこともないし、あのアニメでしか見たこともない。いや、うそだ。あのアニメもミームとやらでやたら見かけるくらいで、僕にとっては電子電脳の世界のものでしかない。でも、イメージというものだ。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ……。
音がスピードをあげる。キーボードを叩く僕の指が滑らかに動いている音だ。そう、僕は今ただひたすらに脳内の情報を、ただひたすらに(大切なことだ以下略)垂れ流し続けているに過ぎない。
なぜかって?
そりゃあ、もちろん決まっている。
そうしないと正気を保つことができないからだ。しんと静まり返った部屋で数秒でも、少しでも思考を始め、動きを止めてしまったが最後、僕は僕でいられなくなってしまう。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。
キーボードを叩く。それだけで、僕は僕として存在していられる。この場所にいても特にいいのだと思ってもらえる。いや、違う。風景の一部に溶け込めるんだ。それには大切なことがある。
なにかって?
それはもちろん——打ち損じた時も、考えてはいけない。逆に少し要らない文字でも足してから、素人が格闘ゲームでボタンを連打し続けるようにバックスペースを叩き続ける。ただひたすらに。
そう、ただひたすらに。
僕はキーボードを叩いている。空調の音に負けないくらい、激しく、リズミカルに。ただ、ひたすらに。
終わることは息を止めることに等しい。僕にとっては。




