8 伝える真実
村へ戻ったころには、日も落ち、あたりは暗くなっていた。
家々の灯りがぽつぽつと揺れて、
みんな不安そうに顔を寄せ合っている。
村長の家に通されると、
大人たちが真剣な顔でステラとゼフを見つめた。
「——それで、森の狼のことだが。見に行ったんだろう」
村長の声は低い。
しばらく迷ってから、ステラは口を開いた。
「……あの狼さんは、畑を荒らしてないよ」
部屋の空気がぴしっと固まる。
「なにを言う。見た者だっているんだぞ」
「それは狼さんじゃない。人だったんだよ」
ステラはゆっくりと言葉を選ぶ。
胸の奥に残っている、あの寂しさを思い出す。
「狼は、森と祠を守ってただけ。
昔は、村の人たちと仲良くしてた。
——でも、みんな狼さんのことを怖がって、だんだん誰も来なくなって……」
少しうつむく。
「寂しかったんだ」
ざわ、と声が上がる。
「獣が……寂しいと?」
「そんな、ばかな」
否定の声が重なっていく。
ゼフが一歩前に出た。
「ステラの話は、本当だよ。俺も見た。あの狼が見せてくれた」
彼は窓のそばへ歩き、静かに目を閉じた。
風が、すっと部屋に入り込む。
ランプの炎が揺れ、カーテンがかすかに膨らむ。
「——教えてくれ、昔のこの村を」
誰にも聞こえないほど小さな声。
次の瞬間、ゼフの表情が変わる。
穏やかな、優しい顔。
でも、遠くを見ているような。
その様子は、まるで違う場所を見ているみたいだった。
(風から、記憶を読み取ってるんだ……)
ステラはそう感じた。
ゼフはゆっくりと口を開く。
「昔、この村は森に守られてた。
狼は祠の番であり、森の精霊でもあったんだ。
村の子どもたちもよく会いに行って、狼の近くで遊んでた」
村人たちが顔を見合わせる。
「外から悪い連中が来たとき、
森と狼が、道を塞いで追い返したんだ。
それで——村は助かった」
沈黙。
年配の女性が、ぽつりとつぶやいた。
「……昔、祖母が言ってた。
『森に礼を忘れるな』って……」
別の男が眉をひそめる。
「だが、どうして今は——」
ゼフは目を伏せる。
「少し前、畑が荒らされたから。
狼がやったとみんなが考えて、悪者にした。
それから、森へ行く人がいなくなった」
部屋の空気が、重く沈む。
村長は長く息を吐いた。
「——信じろるとは、すぐには言えん。
だが、確かめる必要はあるな」
ステラは、こくりとうなずいた。
「祠に行こう。
狼さんも、ちゃんと話をしたいはずだから」
夜の静けさが、外で広がっていた。




