5 ステラの演舞
魔法の祭典は七日にわたって行われる。
一日目と二日目は人が中心に、三日目と四日目は精霊が中心となって祭典を進めていく。
五日目と六日目は人も精霊も楽しむ日。
最終日では、人と精霊が協力して、催し物をすることになっている。
元々は、人と精霊が共に生きることを願う祭りだった。
それが今では、人も精霊も区別なく、協力して生活していることの象徴となっている。
祭典では、様々な催し物がある。
人は精霊へ、日々の感謝の気持ちを込めて。
精霊は人へ、人との共生への願いを込めて。
最後には、さらなる街の発展と、人と精霊の共生の永続を願って。
多くの願いや気持ちを込めて、人や精霊は、魔法を披露するのだ。
そして、今日は祭典の一日目。
人が、精霊に感謝を伝える日である。
中央広場に設えられた円形の舞台は、淡い光の魔法陣に縁取られ、空気そのものがきらきらと輝いていた。
観客席には人が溢れ、期待と高揚がざわめきとなって広がっている。
「次は、旅の魔法剣士・ステラさんの演舞です!」
司会の声が響いた瞬間、視線が一斉に集まる。
ステラは一歩、舞台へと足を踏み出した。
人前に立つのは慣れていない。
胸の奥が少しだけ、きゅっと縮む。
(……大丈夫。落ち着いて。いつも通りでいい。
それに――)
観客の方を見ると、ゼフと目があった。
ゼフはにっと笑い、手を振った。
(今日は、人が精霊に感謝を伝える日。
私も、ゼフに『ありがとう』って、言いたい。
その気持ちも込めて⋯⋯)
深く息を吸い、剣に手をかける。
同時に、体の内を巡る魔力が静かに目を覚ました。
剣を抜いた瞬間、澄んだ音が鳴り、刃に淡い風の光がまとわりつく。
観客席から、小さなどよめきが起きた。
ステラは構え、そして――踏み出す。
風を纏った一閃。
剣の軌跡に沿って、青白い風の弧が空を裂くように走り、魔法陣の上で花のように散った。
次の動きは、舞うように滑らかだった。
足運びと同調するように、風が彼女の周囲を巡り、髪とマントの端をやさしく揺らす。
斬撃、旋回、跳躍。
剣と魔法が一つの流れになり、まるで風そのものが形を得て踊っているかのよう。
最後に、ステラは剣を天へと掲げた。
集まった風が一気に解き放たれ、無数の光の粒となって空に舞い上がる。
きらきらと降り注ぐ光の中で、演舞は終わった。
――一瞬の静寂。
そして次の瞬間、割れるような拍手と歓声が広場を満たした。
「すごい……!」
「綺麗……風の魔法なのに、あんなに静かで、綺麗で……」
名前を呼ぶ声まで上がる。
ステラは少し驚いたように目を瞬かせ、次第に頬がほんのり赤くなった。
どう反応していいかわからず、剣を胸元に引き寄せる。
(……こんなに、見られるなんて……)
拍手の中で照れて立ち尽くすステラを、優しい目で見つめるゼフ。
しかし、同時に、風に混じるかすかな歪みを感じ取っている。
(……やっぱり、祭りに紛れて何か動いてる)
表情は変えない。
ステラに気づかせることもない。
ただ、翡翠色の瞳だけが、広場の上を吹き抜ける風の流れを静かに追っていた。




