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風の契約と絆を紡ぐ物語  作者: 蒼燈
森の精霊と村の昔話
2/3

2 風の峡谷

草原が終わるころ、地面が裂けるように落ち込んでいた。


 細長い峡谷。

 底のほうから、低い風の音が響いている。


「……道、こっちで合ってる?」


 ステラが首をかしげる。


「合ってる。けど、あまり好きじゃない道だな。」


 ゼフが苦笑する。


 細い橋がかかっている。

 古くて、木はところどころ欠けていた。


 下を覗いた瞬間——

 風が吹き上げ、ステラの外套をばさっと持ち上げる。


「わっ」


「気をつけろ。吹き上げの風だ。」


 ゼフがそっと手を伸ばし、ステラの腕を支えた。


 ドキリとするほど冷たい風。

 でも、その中心に、かすかに魔力が混じっている。


「……これ、自然の風じゃない。」


「たぶん、昔はここに風よけの守りがあったんだろう。崩れて、暴れてる。」


 橋を渡るたび、木がギシギシ鳴る。


 足元が揺れて、ステラの心臓が跳ねた。


 でも——


 どこか懐かしい感触もした。


 風が、まるで呼びかけるみたいに、

 ステラの髪を揺らす。


 ゼフが小さく笑う。


「橋が落ちそうで、怖いのか?」


「……少し。でも、嫌な感じじゃない。」


「ふーん、そっか。やっぱり、お前は風に好かれてるな。」


橋の真ん中あたりで、風が急に荒れた。


横から叩きつけるみたいに吹きつけて、

板がぎしぎし悲鳴を上げる。

 

 木の板がきしみ、

 ステラの足が一瞬すべった。


「——っ!」


 ゼフがすぐ腕をつかむ。


「落ち着け。立てるか?」


「……うん、大丈夫」


「ここの風は、暴れ過ぎだな。少し、大人しくなってもらおう」


ゼフィロスの声が低くなる。

ゼフはステラを支えながら、橋の外に向けて、静かに手をかざした。


 何か呪文を唱えるでもなく、

 ただ、呼吸を合わせるみたいに——息を吸う。


 その途端、風の向きがわずかに変わる。


 荒れ狂っていた渦が、

 ゼフの指先に引き寄せられるみたいにまとまっていく。


「……ここで、暴れなくていい」


 ささやくような声。


 言葉というより、

 風にだけ届く声みたいだった。


 次の瞬間——


 吹き上げていた突風が、ふっとほどける。

 峡谷の底から上がる空気は、穏やかで、柔らかい。


 ステラは息をのんだ。


「今の……どうやってやったの?」


「さあな」


 ゼフは肩をすくめる。

 さっきまでの静けさが、ほんの少し戻った顔。


「ただ、ちょっと“話した”だけだ。」


「風と……話した?」


「放っとかれて、怒ってたんだ。それを宥めただけ」


 ゼフは橋の外をちらりと見る。


 一瞬、翡翠色の瞳が、

 風と同じ色にきらめいた気がした。


 でも、次の瞬間にはいつもの色に戻っている。


「行こう。この先に村がある」


「うん」


 橋を渡りきる頃、

 背中で風がそっと撫でるように吹いた。

 まるで——お礼を言うみたいに。

 風の音は、静かなささやきに変わっていった。


 少し歩いていると、村の屋根が見え始めていた。


「もうすぐだ。今日の寝床、見つかるといいな」


「……うん」


 そして二人は、村へ続く道を進んでいった。


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