4 祭典への招待
しばらくして。
衛兵たちが駆けつけ、縛られた強盗は連行されていった。
広場にはようやく安堵の空気が戻り、ざわめきは少しずつ明るいものに変わっていく。
「ありがとう……! 本当に助かったよ」
「怪我はないかい? 君たちのおかげだ」
次々とかけられる感謝の言葉に、ステラは少し戸惑いながらも小さく頷いた。
こうして面と向かって礼を言われるのは、慣れていない。
「大したことはしてない。な、ステラ」
ゼフがそう言って笑うと、周りの人たちはさらにほっとしたような表情を浮かべた。
その中から、年配の女性が一歩前に出てくる。
「旅の方でしょう? 今夜の宿はもう決まっているの?」
ステラが首を横に振ると、女性はぱっと顔を明るくした。
「それなら、ぜひうちの宿に泊まっていって。お礼をさせてほしいの。
こんな騒ぎのあとじゃ、野宿なんてさせられないわ」
「……でも……」
遠慮がちに言いかけたステラに、周囲の人たちも口々に賛同する。
「そうだそうだ!」
「夕飯も出すよ、今日は祭り前で料理も多いし!」
「英雄なんだから、断らないでくれ!」
一斉に向けられる好意に、ステラは少し困ったように視線を泳がせ、ゼフを見る。
「……どうする?」
「せっかくだし、ありがたく甘えようか」
その言葉に、ステラは小さく笑って頷いた。
「……じゃあ、お世話になります」
そう言うと、周囲にぱっと明るい笑顔が広がった。
拍手まで起きて、広場はさっきまでの不安が嘘のような温かい空気に包まれる。
ステラはその光景を、少し不思議そうに見つめていた。
胸の奥に、理由の分からないあたたかさが、静かに広がっていくのを感じながら。
翌朝。
宿の窓から差し込む光で、部屋はやわらかく照らされていた。
ステラが身支度を整えていると、廊下の方が少し騒がしくなる。
低い声と丁寧な口調、そして足音がいくつも重なって近づいてきた。
ほどなくして、宿の主人に案内される形で、上品な服装の男性が部屋の前に現れる。
落ち着いた雰囲気と、どこか威厳を感じさせる佇まい。
どうやらこの街を治める立場の人物らしい。
「昨日は、街を救っていただきありがとうございました」
深く頭を下げられ、ステラは少し驚いて目を見開く。
「わ、私たちは……」
「市長を務めております。皆の代表として、感謝をお伝えしたく参りました」
市長は穏やかな笑みを浮かべながら、続ける。
「あなた方のおかげで、祭りの準備も無事に続けられます。
実は数日後、この街では魔法の祭典が開かれる予定でして……」
ゼフが興味深そうに眉を上げた。
ステラが、軽く首を傾ける。
「魔法の祭典?」
「ええ。人と精霊が争わず、共に生きるため、魔法で喜びを分かち合う儀式が元となった祭りです。
ぜひ、お二人を特別なお客様としてお招きしたいのです」
そう言って差し出されたのは、紋章の入った招待状。
淡く魔力が宿り、触れると温かい。
「強盗を捕らえた功績だけでなく……あなた方の力に、街として興味もあります。
もちろん、無理にとは申しません。ただ――」
市長は少しだけ声を和らげる。
「この街は、あなた方のような旅人を歓迎します。
どうか、祭典まで滞在していただけませんか?」
ステラは招待状を見つめ、少し考えるように黙り込む。
そして、そっとゼフを見る。
「……どう思う?」
「面白そうだな。風も、にぎやかな場所が好きだし」
ゼフはそう言って、穏やかに微笑んだ。
ステラは小さく息を吐き、うなずく。
「……じゃあ、参加します」
その答えに、市長は心から安堵したように笑った。
「ありがとうございます。きっと、忘れられない祭りになりますよ」
こうして、二人は思いがけず、街最大の行事、魔法の祭典へと招かれることになった。




