3 突然の事件
二人が街を楽しく歩いていた時。
鋭い悲鳴が、広場の中心から響いた。
人の流れが一瞬止まり、次の瞬間、波のようにざわめきが広がる。
フードを深くかぶった男が、人混みをかき分けるように走り出していた。
その手には、淡く光る魔法石の入った袋。
「強盗……!」
ステラがそう口にした瞬間、男の足元に風が渦を巻き始める。
「逃がさない」
ゼフの声が低く響いた。
男は人混みを縫うように走り、屋台の間を強引に突っ切っていく。
ぶつかった人たちの悲鳴と怒号が広場に広がり、空気は一気に緊張に包まれた。
「ゼフ、右に逃げてる!」
「了解」
短いやり取りの直後、突風が地面をなぞるように走った。
男の進行方向の先で風が壁のように立ち上がり、砂埃と紙屑を舞い上げる。
「なっ……!?」
進路を塞がれ、男が足を止めたその一瞬。
ステラはもう動いていた。
人混みの隙間をすり抜けるように駆け、剣を抜く。
刃に淡い魔力が宿り、空気がひんやりと震えた。
「そこまで」
静かな声と同時に、男の後ろにステラが立つ。
男に向けて、剣を突きつける。
風と魔力が絡み合い、男の足元を縛るように渦を巻く。
バランスを崩した男が転倒し、手から袋が滑り落ちた。
中からこぼれた魔法石が、石畳の上で淡く光る。
「くそっ……!」
立ち上がろうとした男の前に、すっと影が落ちる。
「抵抗はおすすめしない」
ゼフが微笑みながら立っていた。
その翡翠色の瞳には、先ほどまでの柔らかさとは違う、冷たい光が宿っている。
風が男の周囲を取り囲み、逃げ道を完全に塞いだ。
――広場は、静まり返っていた。
人々は息を呑み、突然現れた二人の旅人を見つめている。
ざわめきの中で、誰かが小さく呟いた。
「……あの二人、何者だ?」
ステラは剣を下ろし、少しだけ周囲を見回す。
集まる視線に、ほんのわずか戸惑ったように瞬きをした。
そして、ゼフの方をちらりと見る。
「……目立ちすぎた?」
「たぶん、そうだな」
苦笑しながら答えるゼフの声は、もういつもの優しい調子に戻っていた。




