1 にぎやかな街
森を通り抜け、丘をひとつ越えると、視界が一気に開けた。
遠くに、太陽に照らされた大きな街が広がっている。
魔法都市イルミ。
人と精霊が共に暮らしている街。
赤茶色の屋根がぎゅっと集まって、その上に細い塔が何本も伸びている。
塔の先に掲げられた旗が、風を受けてパタパタと揺れていた。
「……わあ」
気づいたら、ステラの口から声がこぼれていた。
街の周りには白い城壁があって、その前の道には、人が多く歩いている。
荷車を引く商人、旅の冒険者、大きな荷物を抱えた人たち。
それぞれが笑ったり、急いだり、誰かと話したりしている。
空気そのものが、少しあったかい。
横でゼフがふっと笑った。
「にぎやかだな。静かな森とは、だいぶ違う」
「……うん。なんか、こういう明るい場所……少しだけ胸がそわそわする」
ステラは自分の胸に手を当てる。
不安、だけど少し楽しみ。
はっきり思い出せないのに、この景色だけは懐かしいような気もした。
街の門が近づくにつれて、音がどんどん増えていく。
鐘が鳴る音。
誰かが笑う声。
遠くで奏でられる笛の音。
そして──どこからか、甘い匂いがふわっと漂ってきた。
「なんか、甘い匂いするね」
「うん。お菓子の屋台っぽいな。砂糖を焦がす匂いだ」
ステラのお腹が、小さく鳴った。
ゼフに聞こえていないことを願うステラ。
でも、
「ステラ。あの屋台のお菓子、食べるか?」
そのゼフの一言で、お腹の音が聞こえていたことがわかり、恥ずかしさで顔が少し赤くなるステラ。
「……食べる」
「じゃあ、買ってくるよ」
ゼフが屋台にお菓子を買いに行き、二人分買って帰ってくる。
少し炙って溶けた砂糖が乗っているクッキーはおいしかった。
「おいしい」
「そうだな。これが食べれたのはステラのお腹が鳴ったおかげだ」
「……ゼフ。そういうの、よくないと思う」
「そう?」
ゼフがイタズラっぽく笑うと、ほんの少しだけ風が吹いた。
ステラの髪がふわっと持ち上げられる。
「ちょ、ゼフ……!」
思わず髪を押さえて、ステラはむすっとした顔をする。
でも、すぐに小さく笑った。
色とりどりの布で飾られた道。
魔法で浮かんでいる光の輪。
呼び込みの声と笑い声。
まるで世界そのものが、明るくなったみたいだった。




