12 旅立ちの朝
朝の光が、村の屋根を柔らかく照らしていた。
ステラは寝ぼけ眼で毛布を引きずり、窓の外をぼんやり眺める。
鳥の声が小さく歌い、遠くの森からはまだかすかに風の匂いがする。
昨日のお祭りの賑わいが、夢のように頭の中に残っていた。
「……おはよう、ステラ」
ゼフの声で現実に引き戻される。
風が指先をくすぐるように吹き、ゼフの翡翠色の瞳が笑っていた。
「……うん、おはよう」
ステラは布団をぱたんと畳み、肩を伸ばす。
胸の奥が少しだけ重くなる。
(もう、村を離れるんだ……)
広場に出ると、村人たちが集まっていた。
昨日の笑顔がそのまま残っていて、少し照れくさい。
村長がにっこり笑い、手を振る。
「ステラ、ゼフィロス、気をつけて行けよ」
子どもたちも、木の枝で作った小さな花輪を掲げて手を振る。
その隣で、黒い狼が静かに座って、尾を少し揺らしている。
狼の瞳に、昨夜の寂しさと喜びが混ざった光が宿っていた。
ステラはそっと歩み寄る。
狼の鼻先に手をかざすと、静かに息を感じる。
「ありがとう……」
狼はゆっくりと顔を上げ、低くうなずく。
その姿は、ただの動物じゃなく、精霊としての存在感を放っていた。
ゼフもそっとステラの横に立ち、風をまとわせる。
空気がふわりと揺れ、二人をそっと包み込む。
村人たちは、最後まで見送る。
笑顔も、涙も、どちらも交じったまま。
ステラは小さく息を吸い、カバンを背負った。
「行こう、ゼフ」
「うん」
二人は村を後にする。
森と畑の向こうに広がる道を、足取り軽く進む。
風が二人の周りでくるくると舞う。
精霊の力と、人の思いが、ほんの少し交わる瞬間。
遠くで、狼が尾を揺らす。
村人たちが手を振る。
——旅はまだ始まったばかり。
でも、確かに帰る場所があるという安心も、胸に残っていた。
ここで1章完結です!
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