10 お祭り
村の広場に、灯りが並んでいた。
木の枝に吊るされた小さなランプが、
星のようにに瞬いている。
歌声と笑い声が混ざって、
昼とは違うあたたかさが広がっていた。
「今日は祝いだ!」
「森が戻った、畑も息を吹き返した!」
大きな鍋から湯気が上がり、
パンとスープの匂いがあたりに満ちる。
ステラは、少しだけ戸惑った顔で座っていた。
(……こんなに賑やかなの、久しぶり)
ゼフィロスは横でにこにこしている。
「たまにはいいだろ? こういうのも」
「……うん。ちょっと、落ち着かないけど」
村長が近づいてきて、
柔らかく微笑んだ。
「おまえたちがいなければ、森は敵のままだった。
感謝を——形にしたくてな」
村長から差し出されたのは、小さな紐のお守り。
中央には、薄い木片がはめ込まれている。
「……これは?」
「祠のそばで拾った、古い木だ。
森の風をよく通す。
旅の無事を祈る道の守りとして、受け取ってくれ」
ステラは両手でそっと受け取る。
胸がきゅっと温かくなる。
「……ありがとう。大事にする」
ゼフも、同じ形のお守りを受け取り、
くすぐったそうに笑った。
その賑わいの中——
黒い狼が、静かに近づいてくる。
誰も怖がらない。
むしろ、道を少しあけて迎えいれる。
ステラの前で、狼は止まった。
しばらく見つめ合う。
そして、柔らかく目を細めた。
まるで、過去を懐かしむように。
『——久しぶりだ、という感じがする』
ステラの心臓が、どくんと跳ねる。
『昔、森の外で。
おまえは誰かを守ろうとしていた。
その瞳は、今と同じだった』
「……私が?」
ステラは思わずつぶやく。
記憶の奥が、かすかにざわめいた。
でも、掴もうとしても、指からすり抜ける。
狼は、静かに首を振る。
『無理に思い出さなくていい。
ただ——変わらず守る道を選ぶおまえなら、きっとまた、同じ場所に辿り着く。
どのような結末を迎えるか、楽しみにしている』
ゼフが横目で二人をちらりと見たが、
何も言わなかった。
風だけが、優しく揺れる。
歌がまた高らかに響き、笑い声が夜空へ溶けていく。
ステラはお守りを握りしめた。
(いつか……思い出せるかな)
でも今は——
胸の奥で、小さな光が灯った。
旅はまだ続く。
だけど、確かに帰ってきたい場所が増えた。
それが、少し嬉しかった。




