1 草原の道
風が、頬をかすめた。
目の前には、どこまでも続く草原。
背の高い草が風で揺れるたび、光が波のように走っていく。
草原にできている小さな小道を少女は黙って歩いていた。
足取りは軽くないけど、止まる気配もない。
くすんだ金色の髪と青緑の瞳を持つ少女はただ、まっすぐ前を向いていた。
彼女の名前はステラ。いろいろなところを相棒と共に旅している。
彼女の隣を歩くのは、相棒のゼフィロス。
ステラはゼフ、と呼んでいる。
ゼフィロスがちらっとステラの方に翡翠色の目を向ける。
その目は、心配の色が浮かんでいた。
「ステラ、少し休むか? ずっと歩いてるだろ」
ステラは首を横に振る。
「……大丈夫。まだ、歩ける」
「はいはい、そう言うと思った」
ゼフィロスは呆れたように笑う。
でも、その笑い方が妙にやさしくて、からかってる感じじゃない。
ステラは空を見上げた。
ぽこぽこと白い雲が浮かんでいる。
——知らない空だ。
見覚えがあるような気もするのに、掴もうとすると指の間から全部こぼれ落ちる。
過去の記憶が、霧のようなもので隠れて見えない。
遠くにある、薄い記憶の端っこに、何か、大切なものを置いてきてしまった気がする。
でも、やっぱり思い出せない。
胸の奥がきゅっと痛くなって、ステラはこっそり、小さな息を吐いた。
「おい、やっぱり疲れたんだろ。休憩しよう」
ゼフィロスが、わざとらしく顔を覗き込んでくる。
「……別に、そんなんじゃない。疲れてないから」
「疲れてないって顔じゃないけどな」
ステラは答えない。
言葉にできるほど、ちゃんと自分の気持ちが分からない。
ただ——
覚えてないはずなのに、「何かを忘れてる」って感覚だけが、ずっと消えない。




