22話 宝剣カレトヴルッフ
翌日。
鍛冶場兼格納庫には、早朝の冷たい光と、金属を焼く炉の熱が混じり合う中で、ヨクハ達騎士団の団員は全員が集合し……何やら揉めていた。
「で、結局俺ってどの聖霊剣使えばいいんだ?」
原因は、ソラの使用する聖霊剣がないことだっだ。
「そういえばお主の聖霊剣のことなどすっかり忘れとったな」
「こんな出陣直前になって思い出さないでくれないか団長、俺何のために訓練とかしてたの?」
「うるさいのう、お主も人任せにしとらんで自分から聞くとかすればよかったじゃろ」
「そんなこと言ったって、何か考えてくれてるだろうって普通は思うだろ」
「だろうだろうって、そのだろうが最近の若者の悪いところなんじゃ、もっと自発的にじゃな――」
「ちょっともう止めてよ団長、ソラ君。今そんなこと言い合ってる場合じゃないと思うよ」
互いに責任を押し付け合うソラとヨクハに、プルームが割って入った。
「少し破損してるけど予備のカットラスがもう一振りあるから、それじゃ駄目かな?」
そう言ってプルームが持って来た聖霊剣の刃には、淡い風の流れが宿っていた。しかしソラは手に取った瞬間、今までは意識していなかったため感じることがなかった微かな違和感を覚える。
ヨクハが言う。カットラスは風属性、ソラは光属性であるため相性は最悪、模擬戦程度なら何とかなったとしても、実戦ではろくに戦えもしない。ましてや破損した聖霊剣では尚更だと。するとヨクハは何かを思い出したかのようにハッとした表情でシオンの顔を見る。
「光属性の聖霊剣……そういえば」
「まさか、いやいやいや、あれは駄目だぞヨクハ団長」
ヨクハの考えを察したのだろう、顔をしかめ何やら渋り出すシオン。
「なぜじゃ?」
「なぜもなにもあれは俺の久々の傑作だぜ、何で新参の蒼衣騎士の小僧なんぞにあれを使わせなきゃならねえんだよ」
するとヨクハが目を細め、シオンに詰め寄りながら問う。
「シオン殿お主、新たな聖霊剣を打ちたいとか言って手掛けていたのはいいが、蓋を開けてみれば光属性の聖霊剣で、この騎士団の誰も扱えないんじゃが、どういうつもりであれを打ったんじゃ?」
「あ、いやあ、それはそのな」
ばつが悪そうに後頭部を掻きながら目を反らすシオンに、ヨクハが更に追い打ちをかけた。
「まさかお主、以前珍しく純度の高い光の聖霊石が手に入ったもんじゃから、光属性の聖霊剣を造ってみたいというただの欲求に任せてあれを鍛えてたんじゃあるまいな? 団の資金を散々投入して」
シオンの肩に手を置いて、冷たい笑みを浮かべるヨクハ。
「わかった、わかったよ、あれをソラの小僧に貸してやるよ!」
するとヨクハの静かな追及に観念したように、両手を上げてシオンが言った。
「おっ、何やら光属性の聖霊剣があるっぽいじゃん、シオンさんってば勿体ぶっちゃって」
「ったく」
シオンは嘆息すると、鍛冶場の奥から一振りの剣を持って来た。
「お、おおっ!」
白銀の刀身は陽光を受けて眩く輝き、黒と赤の紋様が刃を包むように走っている。鍔には金色の装飾が施され、どこか神々しさを放つ聖霊剣であった。
「こいつは宝剣カレトヴルッフ。神剣エクスカリバーを超える聖霊剣を打つという俺の趣味……じゃなくて俺の情熱が詰まった快心の業物だ」
「神剣エクスカリバーを? そういえばどことなく……」
ソラは七振りの神剣の内の一つエクスカリバーを実際に見たことはないが、書物で見たことはあり、その姿とこのカレトヴルッフがどことなく似ているように感じていた。
「こいつはかなり高水準で、性能のバランスがまとまった優秀な聖霊剣だ。はっきり言って蒼衣騎士のお前が扱うには過ぎた代物だが、こいつを壊したりしたらどうなるかは、わかってんな?」
拳を握りしめ、不自然な笑顔を浮かべるシオンに、ソラはたじろいだ。
「……凄い嫌なんだけど、これ使うの」
「まあ兎にも角にも、これで問題は解決。皆出陣の準備じゃ」
その号令とともに、シオンが壁に備え付けられた金属の輪を一回しすると、風の聖霊の意思が、鍛冶場兼格納庫の天井をゆっくりと押し開け、空気が一気に澄みわたる。
蒼穹の光が差し込み、七人の騎士の聖霊剣が一斉に輝いた。
そして、ヨクハが握る聖霊剣の名はムラクモ。彼女専用の宝剣であり、灰色の刀身は細身にして反りを帯びる片刃の剣、孤島ナパージでは羽刀と呼ばれる剣の形状であった。
各騎士が聖霊剣の力を解放し、光の外套を形成する。その姿はさながら翼を得た神話の戦士の如く。そしてヨクハが宣言する。
「ホウリュウイン=ヨクハ、出陣する」
戦場に出陣するため蒼空へと舞い上がるヨクハに続き、プルーム、エイラリィ、シーベット、デゼル、カナフ、それぞれが出陣し、空に残光の軌跡を描いた。
そして最後に出陣を控えるソラは、一歩前に出て深呼吸を一つ。
「えーコホン、ソラ=レイウィング、出陣する」
少し照れくさそうに呟き、蒼光の翼が背に広がる。白銀の剣が閃き、ソラもまた、仲間達の待つ空の彼方へと飛び立った。




